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閲微草堂筆記(207)君子と祟り

巻十二 君子と祟り
 姚安公が言うことには、霸州に一人の老儒(老齢の儒者)がいた。昔ながらの君子たる人物であり、郷里の者たちは彼を尊び、酒を捧げていた。

 ところが、その老儒の家で突如狐が祟りを為すようになった。老儒が家に居る時は寂然としているが、彼が外に出れば途端に窓や扉がガタガタと震え、器物は壊され、汚物が投げ込まれ、ありとあらゆる怪事が起こった。

 それゆえ、老儒はあえて外出することをせず、家の扉を閉ざして修身に努めるばかりであった。


 時に、霸州の諸生たちが河岸の工事をめぐって州牧(州の長官)を訴えようとしていた。彼らは孔子廟に集い、会合をひいたのだが、その訴状の一番初めに老儒の名を連ねようとしていた。しかし、老儒は狐の祟りのためにその会合には来ず、そこで別に王という儒生が推されることとなった。その後、王と彼に連座した者たちは官吏に抗った罪で処刑されることになり、老儒はそれを免れることができたのだった。 


 この沙汰がくだされたのと同時に狐は去って行った。そこで初めて、この祟りは老儒を足止めするためであったと知れたのだった。

 取るに足らない者には吉兆があらわれることはない。取るに足らない者に吉兆があらわれるとすれば、それは天がそれを以てしてさらにその者の罪を深くさせようとしているのだ。
 君子に祟りがおこることはない。君子に祟りがおこるとすれば、それは天がそれを以てして警告を示しているのだ。

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