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閲微草堂筆記(215)幽鬼と狐

巻八 幽鬼と狐
 老儒(老年の儒者)の劉挺生が言うことには、東城に一人の猟師がいた。彼が夜中に目を覚ますと、窓紙からざわざわと音が鳴っているのが聞こえた。さらに、窓の下でササッと衣擦れの音が聞こえる。そこで衣を羽織り、大声で誰何したところ、すぐに答えが返ってきた。

「私は幽鬼にございます。あなた様にお願いごとがございます。どうか怖がらないでくださいませ。」

 猟師がそれはどのようなことかと問うと、幽鬼は答えた。

「狐と幽鬼は古より同じ場所に住むことはございません。狐の住処がある墓は、一人として幽鬼が居ない墓でございます。私の墓は村の北側、三里ばかりのところにあります。ところが、私が他の場所に赴いていた機に乗じて、狐が一族の者たちを集め住処を乗っ取り、私を追い出して入れなくしたのです。闘おうとするにも、私は元は文士でございましたから、絶対に勝てません。土地神さまたちにも訴え出ようとしましたが、幸いにして訴えが認められたとしても、彼らは必ずや報復に来るでしょう。そうすれば、またもや絶対に勝つことはかないません。ただ、あなた様が猟に向かう際、半里ばかり回り道して、何度かその地を通りすぎていただければ、彼らは必ずやあなた様のことを恐れ、他の地へと移っていくでしょう。しかしながら、もし狐と遭遇することがあっても決してすぐに捕えたり殺したりはしないでくださいませ。万が一、この事が露見した際、狐たちが私に更なる恨みをつのらせることになるためです。」

 猟師がその言葉どおりにすると、後日、夢の中で幽鬼がやってきて謝礼を述べた。

 そもそも、鵲(カササギ)の巣を鳩が占拠するというのは、当然の理である。しかしながら、相手に勝つための力が不足している時は、避けて争わないようにするのだ。また、相手に勝つための力が足りている時も、深謀遠慮し、その力を全て使い尽くさないようにするのだ。

 幸運で勝つことを求めず、また勝ちすぎることも求めない。これが、その幽鬼が最終的に勝利をおさめた所以ではないだろうか。

 脆弱な者が強暴な者に遭った時は、この幽鬼のようにするのがよいだろう。

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