閲微草堂筆記(214)画の中の女
巻十九 画の中の女
門人で比部(刑部の役人)の伊秉綬が言うことには、とある書生が科挙試験のために京城に赴き、西河沿いの旅舎に泊まっていた。
その部屋の壁には侍女を描いた画が一幅掛けてあった。その女の姿は飄逸としていて美しく、まるで生きているかのような佇まいであった。
彼は独り座すたび、必ずこの画をじっと見つめ物思いにふけり、客が訪れても気づかないほどであった。
ある晩のこと、突如画の中からひらひらと何かが下りてきたかと思うと、それは一人の美しい娘のようであった。書生はこれが妖魅であると気づいてはいたが、想いを募らせることすでに久しく、自らの心を抑えることができずにその美女と共に笑い語らった。
書生は落第し南に帰る際、この画を買って去って行った。ところが、家に着きその画を書斎に掛けたが、寂然として何の験も現れなかった。書生は毎日のように画の女に向かってその名を呼びかけ、やめようとはしなかった。
三、四カ月後のこと、また突然にひらひらと女が下りて来た。書生は女と昔のことを語らったが、女はそれに対し言葉少なであった。書生はそれについて深く問い質す暇もなく、ただただ会えなかった悲しみと再び会うことのできた喜びを共に分かち合った。
それからというもの、書生は女と片時も離れず懇ろになり、ついには持病をこじらせてしまった。
そこで書生の父は茅山の道士を招き、お祓いをすることにした。道士は壁をじっと見つめると、言った。
「この画からは妖気が感じられませぬ。ゆえに祟っている者はこの画の中にはございません。」
そして祭壇を設えると法術をなした。翌日、その祭壇の下で一匹の狐が死んでいた。
これはまず先に人が邪心を抱き、その邪心が邪気を招いたのだ。それ故に狐は侍女の姿を借りて化けて出たのである。京城で出会ったのはまた別の狐であったのだ。
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