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閲微草堂筆記(278)袁愚谷

巻十四 袁愚谷
 制府(総督の別称)の袁愚谷(諱は守侗。長山の出身であり、直隷総督の位まで昇進し、諡を清慤という。)は、私とは幼いころ、席を並べて勉強していた仲であり、また、姻戚関係でもあった。

 袁愚谷が自ら言うことには、三、四歳の頃、彼にはまだ前世の記憶があったらしい。五、六歳になると、ぼんやりとしてはっきりとは思い出せなくなり、今はただ、前世で歲貢生であったこと、その家は長山からはそれほど離れていないことのみを覚えており、姓名や本籍、実家のことやその事跡については全て忘れ去ってしまったという。

 私も、四、五歳の頃、夜中にまるで昼間と同じように物を見ることができた。しかしそれは七、八歳を過ぎた頃からだんだんと暗くなっていき、十歳を過ぎると全く見えなくなってしまった。たまに、真夜中目が醒めて、わずかではあるが以前と同じように見ることはできた。十六、七歳から現在に至るまでは、一年か二年に一度、まるで電光石火のようにぱっと見えてすぐに消えてしまう。

 恐らく、欲望が日増しに増えていくにつれ、その鋭敏な感覚は日増しにすり減っていくのだろう。

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