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閲微草堂筆記(195)土地神の懲罰

巻十一 土地神の懲罰
 叔父の行止が言うことには、とある農家の妻と小姑はいずれも整った美しい顔立ちをしていた。ある月夜の晩、涼をとるため二人は共に軒下で眠っていた。

 そこに突如、赤髪で青い顔をした幽鬼が牛小屋の裏から出てきたかと思うと、ぐるぐると旋回しながら飛び跳ね、掴みかかって噛みつこうとしてきた。時に男衆は皆外に出て畑の見張り番をしていて、妻と小姑は恐ろしさのあまり震えあがって声を出すこともできなかった。幽鬼は一人ずつ引きずり出して無理やり手籠めにした。

 その後、幽鬼は低い塀に躍り上がったかと思うと、突然ものすごい悲鳴をあげて、地面に落ちて倒れてしまった。妻と小姑は幽鬼が倒れたまましばらく動かないのを見て、やっとのことで人を呼んだ。


 隣近所の者たちがやって来て見ると、塀の内側に倒れていた幽鬼はなんと里の不良少年の何某だった。彼はすでに意識がなく人事不省の状態であった。ところが、塀の外側にも幽鬼が一人、屹然として立っているではないか。これはなんと、土地神の祠に置いてあったはずの塑像であった。

 村の年寄りたちは、土地神さまが霊験をお示しになったのだと言って、皆で相談して夜が明けたら祭祀を執り行い土地神さまへ感謝の意を伝えようということになった。


 すると、村の青年の一人が呆然としながら言った。

「某甲はいつも五鼓(五更。午前3~5時頃)に肥(こえ)を担いで出てくるんだ。だから俺は悪戯してやろうと思って土地神さまの社から鬼卒の像を担いできて道に置いたんだ。某甲は驚いて逃げていって、俺は大笑いしたよ。でもまさか偽幽鬼がこれを本物の幽鬼だと思って驚いて倒れちまうなんて、思いもしなかったんだ。土地神さまは何か霊験を示したわけじゃないよ。」

 話を聞いていた年寄りの一人が言った。

「某甲は毎日毎日肥を担いでくるのだろう?ならばお主は何故他の日に悪戯をせず、今日この日に悪戯をしたんじゃ?悪戯の方法とてたくさんあるなかで、お主は何故すぐにこの像を担ぎ出したんじゃ?そして像はどこにでも置けるというのに、お主は何故この家の塀の外に置いたんじゃ?これはな、その間お主に土地神さまが憑いていなさったんじゃ。お主が気づいていないだけじゃよ。」

 そして皆で共に金を募って土地神を祀った。件の不良少年はその父母が担いでいったが、数日間昏睡状態でついに息を吹き返すことはなかった。

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