閲微草堂筆記(200)美人画
巻二十三 美人画
田白岩が言うことには、とある士人が僧舎に泊まったところ、壁に一幅の美人画が掛けられていた。眉目はまるで生きているかのようで、衣の裾が翻っているさまはまるで今にも動き出すかのようだった。
士人は僧侶に言った。
「和尚様、かように心乱すものが恐ろしくはないのですか?」
僧侶は答えた。
「これは天女散花図といって木版画でございます。この寺に百年あまり前から伝わっていたものですが、じっくりと見たことはございませんでした。」
その晩、士人が灯りの下で目を凝らして見れば、画の中の人物の箇所が一、ニ寸ばかり盛り上がっているようだった。
士人は言った。
「これは西洋の画に違いない。だからこのように凹凸があるように見えるのだ。どこが木版画であるものか。」
すると、たちまち画の中から声が聞こえた。
「それはあたしがここから貴方のもとへ出てきたいと思ってるからだよ。怪しまないでおくれよ。」
士人は元より剛直な性質で、すさまじい声で怒鳴りつけた。
「なんという化け物めが!この私を惑わそうというのか!」
すぐさまその軸をつかみ取ると、灯りにくべて燃やしてしまおうとした。軸の中からは泣き声がしてやまなかった。
「私はちょうど煉形の術ができるようになったばかりなのです。ちょっとでも火神さまに触れてしまえば形を失い、心も散じてしまいます。今まで積み上げてきた功徳もすべて水に流すことになってしまいます。どうかお慈悲を賜りくださいますよう。この御恩は永遠に朽ちることはないでしょう。」
僧侶もこの騒ぎを聞きつけ、慌てて様子を確かめにやってきた。士人がわけを話すと、僧侶は何かに気付いたようにはっとして言った。
「私の弟子がここで寝起きしていたのだが、労咳を患って死んだのだ。もしやお主のしわざではあるまいな?」
画は、その問いには答えなかった。それから少しの間をおいて言った。
「仏の御心は広大なものでございませんか。どうして許さないことがございましょう。和尚様はたいそう慈悲深くていらっしゃいます。救いの手を差し伸べるべきではございませんか。」
士人は怒って言った。
「お前は一人殺しているのではないか!今またお前の好きにさせては、この後さらに幾人の命を奪うか知れたものではない!今この化け物の命をひとつ惜しむということは、数多の人間を殺すということだ。小さな慈悲は大きな慈悲の仇となるのだ。和尚様、惜しんではなりませぬ!」
そしてこの画を炉の中へと投げ込んだ。煙と炎が一段と激しくなったかと思うと、血なまぐさい臭いが部屋を満たした。殺したのは僧一人にとどまらないと思われた。
その後、夜が更けると、おお…おお…という泣き声が聞こえるようになった。
士人は言った。
「妖の邪気の残りがいまだ尽きていないようです。おそらく、しばらくすればまたそれらが集まって形を成すようになるでしょう。陰邪の気を破るのは陽剛の気だけです。」
そこで爆竹を連ねたものを十個ばかり買ってきて(京城ではこれを火鞭と呼ぶ)、その導火線を全て一つにまとめてくくり、例の泣き声が聞こえた瞬間、すぐにこれに火をつけた。まるで雷が岩を砕いたかのような轟音がして、窓や扉はみな震えた。そこでようやく泣き声は止み、静かになった。
邪悪を取り除くには徹底的にやり尽くさなければならない。この士人はそのようにしたのだ。
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