閲微草堂筆記(264)蔵経閣の狐
巻三 蔵経閣の狐
貢生(科挙の受験資格を得た者の中でも優秀な者)の張晴嵐が言うことには、ある寺の蔵経閣の上の階に狐が棲みついており、僧たちの多くは下の階に留まり暮らしていた。
ある酷暑の日のこと、一人の雲水がその騒がしいのを嫌い、すぐに坐具を上の階へと移し、そこに住み始めた。
ほどなくして、他の僧たちは梁の上から狐が語りかけてくるのを聞いた。
「皆さま方、暫時、各々の僧房へお帰りください。我々の眷属は少なくないものですから、階下へと移ろうと思っております。」
僧は尋ねた。
「久しく上の階に住んでいたというのに、何故こうも突然移ろうとするのか。」
「上には和尚がいるのです。」
「お主は和尚を避けているのか?」
「和尚は仏弟子でございます。避けぬわけにはまいりません。」
僧はさらに問いかけた。
「我らは和尚ではないというのか?」
狐は答えなかった。僧がさらに強く問い詰めるとこう答えた。
「あなた様方は自ら和尚だと思っていらっしゃるのでしょう?ならばなぜ私が繰り返して言う必要があるのでしょう。」
従兄の懋園はこの話を聞いて言った。
「この狐は物事の白黒をはっきりさせるているなぁ。それにしても、これは三教(儒教、道教、仏教のこと)の人を各々深く反省させることができる話だ。」
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