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閲微草堂筆記(276)巴蝋蟲
巻四 巴蝋蟲
戊子の夏のことである。都では飛蟲が夜に人を傷つけるという噂が広まっていた。
しかしながら、実際に蟲に傷つけられたという者は無く、ただその図像が出回っているだけであった。
その形状は蚕蛾のようだがそれより大きく、鋭い蹴爪のようなはさみがあって、物好きな者はこれを射工(中国の伝説上の毒虫)ではないかと言っていた。
按ずるに、短蜮(射工の別称。短狐ともいう。)は、砂を含み人の影に吐きかけるが、飛んで人を毒針で刺すという話は伝わっていない。射工であるという説はまったくの無稽荒誕である。
私は西域に行って、その図像の蟲がゴビの巴蝋蟲であると知った。
この蟲は熾火の気から生じ、人を見ると飛んで追って来る。水を吹きかけると柔らかくなって堕ちるが、水を吹きかけることができないと、毒にあたってしまう。
その際は急いで茜草の根をその傷口に塗るとすぐに治るが、そうしないと毒気が心の臓にまで至り、死んでしまう。
ウルムチには茜草が多く生えている。山南のゴビの各屯所では、常にお触れを出してこれを採取し、草刈りをする者たちのためにこの蟲の害に備えているという。
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