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閲微草堂筆記(247)幽鬼の鳴き声

巻十七 幽鬼の鳴き声
 束州(現在の河北省河間市)の小作人である邵仁我が言うことには、李氏には妻がおり、彼女はちょうど実家から帰っているところだった。
 日はほとんど暮れかかっており、雨風が強くなってきたので、彼女は廃廟の中へと避難した。夜になってわずかに雨が止んだが、すでに外は真っ暗闇で、進めそうになかった。

 ちょうどそこへ客作(俗に短工という。人のために田を耕し稲を刈って、日割りで賃金を得る。出入りがあり、一所に定まらない人のことである。)が数人、鋤を担いで入って来た。
 李氏の妻は乱暴されることを懼れ、さらに廟の後ろにあるあばら屋へと逃げた。

 ところが客作は暗闇の中でその影を見、呼びかけながら追いかけて来た。妻は焦って為すすべなく、仕方なく「ウウ……ウウ……」と幽鬼の鳴きまねをした。

 すると、そのあばら屋の壁の内外から一斉に「ウウ……ウウ……」という声が聞こえてきて、まるで呼応しているかのようであった。

 客作たちは恐れてもと来た場所へと取って返した。
 夜半になって雨が上がり、彼女は抜き足差し足でこの廟を抜け出しただった。

 これは李福の話と似ているが、一方ではたまたま現れて李福のこと(※)を追いかけ、一方では李氏の妻を救いに来てくれたかのようである。
 これは彼女の心の持ちようが正しく、貞節が固かったために幽鬼が心動かされたのだといっても過言ではないだろう。


※ 巻十七「鳴き真似」。いたずら者の李福が幽鬼の鳴き真似をして人々を驚かせていたが、本物の幽鬼たちを呼び寄せてしまったという話。

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