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閲微草堂筆記(274)二つの袋

巻二十三 二つの袋
 丹公がさらに言うことには、科爾沁(ホルチン。モンゴルの一部族)の達爾汗(ダルハン)王の下僕の一人は、かつて道を歩いていたところ、毛織物でできた袋を二つ拾った。
 その袋のうちの一つには人の歯が満杯に入っていた。そしてもう一つの袋には人の指の爪が満杯に入っていた。

 彼は内心すこぶる怪しみ、これを水中へと投げ棄てた。
 しばらくして老婆が一人、ひどく慌てた様子でやって来て、あちこち見回しながら、何かを探しているようだった。
 老婆は下僕に「袋を二つ見なかったか。」と尋ねた。下僕は見ていないと答えたが、老婆は袋が棄てられたと勘づいて、たちまち激高し、木の枝を折って下僕のことを滅多打ちにした。

 下僕は丸腰で迎え撃ったが、老婆の衣服はまるで通木(あけび)のつるのように柔らかくて脆く、その肌はまるで蓮の果托(蓮の花の中央部分)のようにふやけていて芯がないかのようだった。

 下僕が指で突いた箇所は破裂し、しかしながら手を離すとすぐに伸びてくっつき、元の通りになった。それはさながら刀で水の流れを斬っているかのようでもあった。

 しばしの間、二人は闘っていたが、老婆に勝ち目はなく、下僕を突き放して去って行った。その去り際、老婆は下僕の方を振り返ると罵って言った。

「短くとも三カ月以内、長くとも三年以内に、必ずやお前の魂を奪ってやるからな。」

 しかしながら、現在すでに三年を越えているが、下僕は祟られることはなかった。大口を叩いて怖がらせようとしただけであった。

 この老婆はまさに煉形しようとしていた幽鬼であり、精気を吸い取り足りず、実体を凝結させることができずに気が集まって形をなしていただけのものだ。

 人の歯や爪を蓄えていたのは、歯は骨の余り、爪は筋肉の余りであり、これらを練り合わせ、服用することで身体の状態を堅固なものにしようとしていたのだろう。

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