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閲微草堂筆記(228)藍衫の狐

巻六 藍衫の狐
 徳清翰林院の編修(官名)である徐開厚は、壬戌の年の科挙で登第した先輩である。彼が翰林院で働き始めた頃の話である。

 毎夜、徐が読書していると、建物の後ろにある空き地からもう一人読書する声が聞こえてくる。その声は琅琅としており、徐の声と互いに呼応しあっていった。
 その誦する声を注意深く聞いてみれば、吟じているのは典雅で格調高い律賦(韻文の一種)であった。扉を開けてみたが、外には何も見えなかった。

 そこである夜、忍び足で息をひそめ、こっそり様子を伺うと、少年が一人見えた。青い半臂(丈の短い半そでの上衣)をつけ、藍色の綾衫(刺繍をほどこした衣)を着て、書物を一巻携え、月を背に座していた。頭を揺らしながら詠吟し、その余韻は嫋々(じょうじょう)として尽きることはなかった。

 とくに祟っている者のようではなく、またその後何か吉凶があったというわけでもなかった。

 唐の小説には、天狐が異類の垣根を超えて科挙を受けた話を載せている。そこに記載されていた二つの策は、いずれも四言の韻律で、内容はすこぶる奥妙であった。

 あるいは、この藍衫の狐もまた、科挙に応じた者なのではないだろうか。

 この話は、戈東長先輩が私に語ってくれたものである。戈先輩と徐先輩は同年に進士にあがった間柄である。

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