閲微草堂筆記(221)童子の詩
巻一 童子の詩
永春県(福建省南東部)に邱二田という名の挙人がいた。
彼がたまさか九鯉湖へ向かう道中で一休みしていたところ、牛に乗った童子がやって来たのだが、その歩みはとてつもなく速かった。
童子は邱の前まで来るとしばし立ち止まり、朗々と詩を吟じた。
来たるに風雨を衝いて来
去るに煙霞を踏みて去る
斜照す万峰の青
これ我還る山路なり
(来る時には風雨をおかして来て
去る時には煙霞を踏んで去って行く
斜めにさす夕日が山々を青く照らしている
これぞ私が還る山路である)
邱は、村の子供がこんな詩を作れるものかと怪しみ、しばし考えこんでから尋ねてみようとしたのだが、もはやその子の被っていた笠の影が杉や檜の木々の間に見え隠れするだけで、すでに半里ばかり遠ざかっていた。
これは神仙の戯れであったのだろうか、あるいは郷塾の子供が、人の吟じているのを聞いてたまたま覚えていたのだろうか、真相は分からない。
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