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閲微草堂筆記(202)虎を燻す

巻十五 虎を燻す
 三座塔(蒙古語での名は古爾板蘇巴爾、漢・唐の時代においては営州柳城県がおかれ、遼国の興中府であった。現在ではハラチン右翼の地となっている。)の金巡検(裘文達公の姪の婿であるが、たまたまその名を忘れてしまった)が言うことには、とある樵が山で虎に遭遇した。

 洞穴の中に入って逃げたが、虎もまた追いかけて穴に入って来た。その穴はもとよりそこまで広いものではなく入り組んでいて、樵はぐねぐねと曲がりながら逃げ、虎はだんだんと窮屈になっていった。しかし、虎はどうしても樵を欲しがり、無理やりに体をねじ込んで追って行った。

 樵は万事休すといった状況であったが、ふと脇を見れば小さな穴がある。それはなんとか身体を押し込むのに足る大きさで、樵は這いつくばってその中に入って進んだ。意外にも、身体をうねらせ進むこと数歩ばかりでたちまち日の光が見え、樵は穴の外に出ることができたのだった。

 そこで樵は力をふりしぼって数個の石を運んで虎の退路を塞いだ。そして入口と出口の両方の穴に柴を集め、これを焚いた。虎は燻され灼かれ、その咆哮は峡谷を震わせたが、まもなくして死んだ。

 この話は、止めるべき時に止めぬ者に対する戒めとなろう。

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