見出し画像

閲微草堂筆記(204)帳尻合わせ

巻一 帳尻合わせ
 献県の下役に王何某という者がいた。訴訟文書の作成に秀でており、それを利用して他人の財産を奪い取ることに長けていた。しかしながら、毎度その財産が貯まったかと思うと必ず想定外のできごとが起こり、その分を消費してしまうことになるのであった。

 そこの城隍廟の小僧が、夜、廟の回廊を歩いていると、二人の官吏が互いに帳簿を突き合わせて計算をしていた。そのうちの一人が言った。

「奴は今年ちょっと貯えすぎたね。これを削るにはどんな方法がいいだろうかね?」

 その者がしばし考え込んでいると、もう一人が言った。

「翠雲一人で事足りるんじゃないか。そんなに手間はかからないよ。」

 その廟には往々にして幽鬼が現れる。小僧もまたそれらを見ることに慣れていて怖がらなかった。ただ翠雲が一体誰なのかは分からず、また、誰のものを削るのかも分からなかった。

 時を置かずして、翠雲という名の妓女が現れ、王何某はこれをたいへん寵愛し、その貯えの八、九割を彼女のために使い込んでしまった。さらに彼は悪瘡に罹ってしまい、医薬をかき集めたが、治ったころには貯えはすっかり底をついていた。

 人が王何某が今までに奪ってきたものを指折り数えてみると、その額はおよそ三、四万両にのぼった。
 彼はその後、正気を失い頓死した。葬儀にあたり、棺すら用意することができなかったという。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?