閲微草堂筆記(148)牛の報せ

巻十一 牛の報せ
 田香谷が言うことには、景河鎮の西南にある村には、三、四十軒の家があった。そこの鄒何某が、夜半、犬が吠えるのを聞き、衣を羽織って外に出、様子を窺った。すると、微かな月明りの下、屋根の上に巨人が座っているのが見えた。おおいに驚き叫ぶと、近隣の家から人々が出てきた。
 よくよく見てみれば、それは飼っていた牛が首を上げて屋根の上に蹲っていたのであった。しかし、牛が一体どうやって屋根の上に登ったのかは分からなかった。
 この騒ぎは瞬く間に村中に広まり、男も女も、皆がこの怪事を目にしようとやって来た。

 すると、たちまち一軒の家から火が起った。炎は激しく燃え盛り、風は狂ったように吹き、村はまるごとすべて焦土と化した。そこで、今回のことは牛の為した禍であり、回祿(火の神の名。火災のこと)の兆しであったということになった。

 姚安公は言った。

「当時、村は収穫期で、豆がらや稲穂の山が、高粱の茎で作った垣と茅で作った草屋の間に積まれ、延々と接していた。また農家の者たちは皆仕事で疲れ、深夜にはどの家も熟睡していた。そこに突如火災が起これば、この村の者は誰一人として助からなかったはずだ。天は仁愛を施し、牛を使って人々を驚かせることで夢から醒めさせたのだ。なればこそ、どうしてこれを妖の仕業であると言えようか。」

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