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閲微草堂筆記(272)狐媚二話

巻七 狐媚二話
 いとこの垣居がその昔、劉馨亭から聞いたという二つの話。

 そのうちの一話である。農家の息子が狐に惑わされたため、術士を招いてお祓いをした。狐はすぐに捕えられ、油釜で煮込まれそうになった。息子は叩頭して命乞いをし、狐はやっとのことで開放され、去って行った。
 しかしその後、息子は狐を恋慕うあまり、病を患ってしまい、医者では治すことはできなかった。するとある日狐が再び息子の元を訪れた。互いに顔を合わせた時は悲喜交々といった様子であったが、しばらくして狐はひどく冷淡な態度で息子に向かって言い放った。

「あなたは私のことを想って止まないようですが、それは私の容色を好んでいるだけであって、私が変化していることを知らないのです。私の本当の姿をご覧になって、驚き逃げ出したところでもう遅いのですよ。」

 狐がたちまち地を蹴って跳び上がると、全身、尾の先まで蒼色の毛に覆われていた。フーフーと鼻息を荒くさせ、目は爛々としていて松明のようだった。狐は屋根の上まで跳躍すると、幾度か長く咆哮し去って行った。
 農家の息子はそれから快方に向かった。
 この狐は恩に報いたと言えるだろう。

 さらにもう一話。また別の農家の息子が狐に惑わされ、術士を招いてお祓いをしたが、効き目がなかった。御札はすべて狐によって裂かれ、さらに狐は祭壇に登って術士を叩きのめそうとしていた。すると、狐の母親であろうと思われる老婆が一人現れ、狐を制止して言った。

「物の怪はその群れを大切にし、人間はその仲間たちを庇うものです。この術士の技量は浅いけれど、度を越して傷つければ、他の術士が報復にくるでしょう。お前は婿のところに眠りにでも行って、術士は逃げるに任せておきなさい。」

 この狐は深謀遠慮であったと言えるだろう。

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