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閲微草堂筆記(182)井戸の水

巻七 井戸の水
 虎坊橋の西にある邸宅は、南皮の張公子畏の旧宅であり、現在は都察院左副都御史の劉雲房が住んでいる。
 邸宅内には井戸があるのだが、子の刻(午後11時~午前1時)と午の刻(午前11時~午後1時)に汲むとその水は甘く、他の時刻に汲むとそうではなかった。その原因は明らかではなかった。
 ある者は言った。

「陰の気は午の刻の半ば(正午。昼12時)に生じ、陽の気は子の刻の半ば(正子。夜12時)に生じる。これは大地の気と共鳴しているのである。」

 しかしながら、気というものはあたり一面にたちこめており、遍く天地に充ちているものである。だとすれば何故、他の井戸は同じように大地の気と共鳴せず、ただこの井戸のみが共鳴しているのか。

 西洋においては格物学(物理学の旧称)を最も重んじるが、『職方外紀』(※)にはこのような話を載せている。

 その土地には水流があり、一日のうちに十二回、潮の満ち引きがあるという。そしてそれは時計の時刻と寸分も違わないというのだ。この原因を究明しようとした者が、水辺に小屋を建て昼夜これを計測したが、ついに解き明かすことはできず、しまいには無念のあまり入水し自ら果ててしまった。

 この井戸も、あるいはこの類のものなのだろう。

※世界地理書。1623年、イタリア出身のイエスズ会の宣教師、ジュリオ・アレーニが記した。

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