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閲微草堂筆記(282)無頼の狐

巻二十一 無頼の狐
 高冠瀛が言うことには、ある人の邸宅の裏の空き家に狐が一匹、住んでいた。その姿形は見えなかったが、人と話すことができた。

 その家にはそこそこの貯えがあり、狐が何かしら手を貸しているのではないかとされていた。その話を信じている男がおり、その家の人を通して狐との交流を求めた。狐もまたその求めに応じその男と親しくなった。

 ある日、その男は宴席を設け、狐をもてなそうとした。これを聞いた狐は「私は老いてはいるが、大喰らいですよ。」と言った。そこで男はたくさんの酒肴を用意し、狐を接待した。日が暮れる頃になると、数匹の狐が酔って倒れ、その姿を現した。そこで始めて男は狐が同朋を呼んでいたことを知った。

 このようにすること四度を数え、男は酒肴を準備するのにすっかり疲弊し、衣服や身のまわりの物は質に入れてすっからかんになってしまった。そこで、それとなく狐の力を貸してほしい旨を伝えた。
 すると狐は大笑いしながら言った。

「俺はただ、酒肴を買う金がなくて、それで何度もお前のところに来ていただけさ。俺に金があったなら、自分で酔って自分で満腹になってるさ。何の得があってお前と付き合おうというのか。」

 その後、彼らの関係は途絶えた。
 この狐は無頼であったといえよう。しかしながら私が思うに、この狐の言い分は間違っていない。

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