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『ちょっと考え事してました』ヒューマン中村

どうも、ヒューマン中村と申します。よしもと漫才劇場に所属している、無添加おじさんピン芸人です。
この度、月刊芸人さんで3ヶ月連載させてもらうことになりました。
ありがたいですねぇ。

タイトルは、
『ちょっと考え事してました』

気付いたらどうでも良いことをボーッと考えることがあります。
誰かに言うわけでもない、どうでも良い考え事。
電車に揺られて、なんとなく車窓の景色を眺めながら膨らんで、目的地の駅に着いたら弾けて消えるようなそんな儚い"考え事"を、この場を借りて共有してみようという目論見です。

どうでもいい考え事なので、有益な情報などは一切ありません。
なので、電車で隣に座ってる人の独り言が聞こえてきた、くらいのテンションで読んでもらえたらちょうど良いかと思われます。


皆さんは、見たこともない世界について、なんとなく考えることないですか?
知らないからこそ色々と想像してしまうと言いますか。
宇宙の果てとか、江戸時代とか。

「実際にそこに行ったらどんなことを思うんだろう?」
「あの場所から見える景色はどうなってるんだろう?」
「どんな人がいて、どんな生活なんだろう?」
と。

僕はそういうことをよく考えます。

そして、その"見たこともない世界"の最たるものが、『あの世』だと思います。
皆さんも、「あの世ってどうなってるんかな」と、一度は考えたことあると思います。
だって行ったことないから。

まず思うのは、あの世って広そうですよね。

今まで死んだ人をみんな収容できるわけですから、かなり広大な土地が必要になります。

さらに、天国とか地獄とか、さまざまなエリアに分かれてもいますし、地獄の中だけでも、針山とか血の池とか、色んなアトラクションもあるし、さらに天国行きか地獄行きかまだ決まっていない人がたむろするロビーのようなエリアもあるはずです。

このロビーにいる時間が一番楽しい可能性ありますね。
それぞれの死因について喋ったりして。
初対面でも、同じようなタイミングで死んだ者同士、同期みたいな感覚になるかもしれません。
そこで、

「俺、万引きとか空き巣とか結構してたから地獄行きそうやわぁ」
「マジすか〜、でも良いことしてたらわかんないんじゃないですか? なんか良いことしてないんですか?」
「えー? 良いこと……? うーん、靴脱いだ時は、ちゃんと揃えるようにはしてたかな〜」
「それめっちゃ良いすやん! 天国あるでしょ」
「そうかなぁ」

みたいな意味のない励まし合う時間あったり、

「なんか、前に、放火して天国行った人いるみたいですよ」

とか、出どころの怪しい噂を流すやつとかもいて。
そこのロビーで一緒になった同期的なやつとは、お互いに地獄に落ちた後で、血の池地獄とかで偶然一緒になったらホッとしそう。
そして

「地獄慣れた?」
「いや、全然。昨日初めて針山行ったけどめちゃくちゃしんどかった」
「うわ、俺針山まだやわ、どんな感じ?」
「あれ実は、下りる方がキツい」
「そうなんやー! 聞いといて良かった〜!」

こんな感じで情報交換してると思います。
そう考えるとやっぱり、なるべく閻魔エリア前のロビーでは色んな人に話しかけておいた方が良さそうですね。


また、あの世には三途の川という有名な川が流れていて、その河原には、子供だけが行かされる、キッザニアみたいな地獄があります。

それが、賽の河原(さいのかわら)。
親に先立って死んでしまった子供は、そこの河原に落ちている石を積んで塔を作らないといけません。
でも、ある程度、石を積んだら鬼がやってきて、その石の塔を崩します。
鬼に塔を崩されたら、また一から石を積んで……でもまた鬼がやってきて崩されて……が、永遠に続く地獄です。

「報われない努力」の代名詞としても使われる賽の河原。
考えただけで、気が滅入る無限地獄です。


石を積んだら、鬼が来る。
石を積んだら、鬼が来る。
石を積んだら、鬼が来る。
石を積んだら、鬼が来る……あれ? ちょっと待ってください。


ふと思ったんですが、これ、鬼も割としんどくないですか?


だって、鬼はその場にいるわけじゃなくて、石が積み上がりそうなタイミングでどこか別の場所からやってくるんですよね?

しかも、わざと石を積んでる子供の気が滅入るように、ある程度積み上がったところを見計らって石を崩さないといけない。
言うなれば、石の塔が出来上がる直前の
『石の塔リーチ』
の状態で崩すのが理想です。
ということは、石を積んでる様子をずっと見て、石の塔リーチを見つけないといけないですし、石の塔リーチを見逃してはいけません。

しかも、賽の河原で石を積んでる子供は一人じゃ有りません。
たくさんの子供が、それぞれの場所で、それぞれのタイミングで石を積んでいます。
その全ての石の積み上がり状況を把握しとかなければいけません。

あれ? 鬼しんどくない?

しかも、広大なあの世に流れる三途の川なんて、とてつもなく長いでしょうから、河原もその分広いわけで。
河原の端と端で、同じようなタイミングで石の塔リーチが発生したら、どっちかの端に行って石を崩して、その直後にすぐ逆の端に行って石を崩さないといけません。

さらにそんなことしてる間に、別の場所で石の塔リーチが発生して、またそこに行って崩して……もう、シャトルランです。

鬼、しんどすぎません?

賽の河原担当の鬼が何人体制でやってるかわかりませんが、時には体調崩す鬼もいるでしょうし、シフトが極端に少ない日もあるでしょう。
そうなった場合、最悪ワンオペの時もあると思います。

ワンオペで賽の河原はきつすぎます。飯食う時間絶対ないです。

ただ、ワンオペで賽の河原回せたら、他の鬼から一目置かれそうです。
ワンオペで賽の河原回せたら、他のどの地獄行ってもやっていけるでしょうし、視野が広いから、それぞれの地獄に応じた鬼の配置とかも決めれるようになります。
地獄長とかも任されます。
地獄に落ちた人間をしばく用のムチも、地獄長だけがもてる赤いムチを使えます。

地獄長として頑張ってたら、新しくオープンする針山地獄のプロデュースも任されるでしょうし、ゆくゆくは閻魔職にも就けることでしょう。

そう考えると、現役の閻魔さまの賽の河原の動き見てみたいですね。
とんでもなく効率の良いやり方をしていて、その動きたるや、芸術の域かもしれません。

ひょっとすると、あの世の鬼の間では、
「閻魔さまが普通の鬼だった頃に賽の河原をワンオペで回してた映像」がめちゃくちゃ再生されてるかもしれません。

ロナウジーニョのスーパープレイ集的な感じで。

てな感じで、いつかあの世に行った時には、ロビーで色んな人と喋って、余裕があったら賽の河原ワンオペ鬼を見てみたいなぁ、と。

そんな考え事をしてました。


最後まで読んでくれてありがとうございました。

あと、2ヶ月よろしくお願いします。

では、駅に着いたのでこの辺で。


ヒューマン中村 プロフィール
NSC大阪校 25期生
特技は大喜利、高校生クイズ・ロボットコンテストなどの男子学生のモノマネ。
2021年 第六回上方漫才協会大賞 文芸部門賞 受賞
2021年 R-1ぐらんぷりクラシック~集え!歴戦の勇士たち~ 初代MVP(エムブイピン)

ヒューマン中村INFO

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著者/ヒューマン中村

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