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【10月号】やさしいズタイの『ここだけのコントの話をしましょう』 しずる・池田×やさしいズ・タイ 「死ぬ前にあのネタやっておいたら良かったな”って思いたくない」

“真のコント日本一”を決める『キングオブコント2020』(TBS系)は、ジャルジャル(後藤淳平、福徳秀介)が王者となって幕を閉じた。

ネタに定評があり、優勝候補だったジャルジャルでも13度挑戦してようやく掴んだ栄冠。『キングオブコント』チャンピオンになるには、それほど厳しく辛い道のりといえるだろう。そんな光の裏で、王者になれなかったファイナリストや予選敗退組芸人は今、何を思うのか?

今回、決勝開催前にファイナリスト経験者であるしずる・池田一真(09、10、12、16年進出)とやさしいズ・タイ(18年進出)に、“芸人から見た『キングオブコント』”についてインタビューを実施した。大会に挑んでいるからこそ分かることはもちろん、客席やテレビからでは決して知ることができない挑戦者の想いについて赤裸々に語ってもらった。

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2組の今年の大会を振り返ってみて

ーー今年のキングオブコントは2組ともに準々決勝敗退。悔しさもあったと思いますが、まずは今年の大会を振り返ってみていかがですか?

タイ:やっちゃった2組ですもんね。

池田:本当にヤリ2だからなー!

タイ:マジで言うと、“準決勝に行くだろうな”っていうネタの質って自分の中であるじゃないですか。今年作ったネタが、そこを超えていないし、このネタをかけたとしても“決勝に行けないし、行ったとしても優勝しねーな”っていうのがあったんですよ。

じゃあ、俺も好きだし、質も高いし、決勝でやりたいネタをしようって。過去(大会に)かけたことのあるネタだったんですけど、“好きだしな”ってことでやったら落ちたパターンです。既視感は賞レースでもだいぶ(不利になる)。

池田:マイナスだね。じゃあ納得はいっているんだ?

タイ:納得はしてるっちゃしているっていうか。悔しいというほどでもないです。まぁしゃあないかという。

池田:(自分たちは)単純に面白くないものを持って行ってしまいましたね……。

タイ:(笑)。

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ーー今回はコロナ禍ということもあり、やさしいズさんのように過去の傑作ネタを持っていく方々も多かったようですが、しずるさんはどうだったんですか?

池田:今年の7月に単独ライブをやるはずだったんですけど、その時に作ったネタです。思いの外いいなっていうのもありましたし、タイがいう“既視感”もない。(言うのは)むちゃくちゃ恥ずかしいですけど、(準々決勝)終わって、正直“ちょっと(ウケが)足りなかったけど、しずるだしな”っていうのがあったんですよ。

ーーネームバリューというか(笑)。

池田:はい。でも審査員はちゃんと見ていましたね。素晴らしい! 最初は“ウケたけど、通らなかったか……”って思っていたんですけど、バカウケしたらしいインポッシブル(ひるちゃん、えいじ)が落ちたのを聞いたときに、“じゃあ(自分たちは)落ちるか”って速攻で諦めつきました。


キングオブコントのネタ選び
“ウケるだろうな”という声の領域

ーータイさんは、同じコント師で先輩の池田さんにお聞きしたいことございますか?

タイ:(2014年)初めて準決勝に行って、2、3年準決勝の袖で先輩たちのネタを見ていたんですけど、“なんでこの人たち、こんな振りかぶったネタやるの?”って思っていたんですよ。“もっとアベレージが高くて、ウケるヤツあるじゃん”って。ウケたらとんでもないことになるけど、ハマらなかったら終わりっていうネタをかけていて、決勝に行くためのネタじゃなくて、『優勝するか・しないか』(はっきり分かれた)ネタをしているなと。

池田:あの……マ、マジでそんなこと考えていなかった!

タイ:(笑)。

池田:ルミネ(theよしもと)で、準決勝とか決勝に持っていくネタをやると、とんでもなくスベるときがあるんですよ。僕らが今まで(決勝で)7個ネタをやった中で、ルミネの通常公演で、できるネタは1本だけです。
周りに『なんでやらないの?』って言われるんですけど、ウケないからなんですよ。
(『キングオブコントで』2014年まであった)芸人審査のときって、めちゃくちゃ楽で。ルミネのお客さんのウケ関係なく、芸人が『面白かった』って言ってくれたら、“コイツらは票を入れてくれるんだ”って思うというか。だから自信を持ってやれていたんですけど、でも、今の5人の審査員(ダウンタウン・松本人志、さまぁ~ず、バナナマン)の方々に『ちょっと幕張(よしもと幕張イオンモール劇場)まで来てもらえませんかね?』って言えないじゃないですか!?

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ーー確かに(笑)。

池田:だから振りかぶるとかは考えたことがなかった。

タイ:そうなんですねー。バット長めに持って強振しているのかと思っていました。

池田:“ウケるだろうな”っていう声の領域ってない?この声出しときゃ、まぁだいたい良いだろうなっていう。決勝行ってる人ってだいたいその声を出していると思うんですよ。だから、俺の中で強振っていうイメージがなくて。ウケる声とか、ウケる芝居……といったら大げさだけど、ウケる立ち振る舞いがある様な気がして。得意なところない?

タイ:得意なゾーンはありますけどね。

池田:それこそ、ジャングルポケットの斉藤(慎二)、バイきんぐの小峠(英二)さん、ゾフィーの上田(航平)とかも“このトーン”っていうのがあると思うんですよ。だから、そこを出せるネタを自然に選んでいるのかもしれない。

ーー_いわゆるウケる声の領域っていうのは人によって違うものなのですか?

池田:そうですね。たとえばラバーガールさんは、僕の得意な音域じゃないと思うんですよ。大水(洋介)さんの立ち振るまいから出る声だったり……いや、こんな話するの初めて!

ーー(笑)。読んでいる方は興味津々だと思います!

池田:大水さんがボケて動いているときに、飛永(翼)さんが得意なタイミングと得意な声量でツッコンでいるような気がして。それぞれ得意なところがあると思うんですよね。

ーーやさしいズさんもしずるさんも、その音域にハマれば決勝もあるんじゃないかと。

タイ:僕らは得意な音域で決勝に行けたけど、負けたから“じゃあどうする?”みたいな。最近分かったんですけど、(プロ野球選手で)キャンプ中にちょっとだけ肘のあげ方変えてフォームを崩すピッチャーいるじゃないですか。その気持ちが分かるというか。
決勝行ったときよりも強い球を投げなきゃいけないけど、パワーつけたらコントロールがなくなって……みたいな。ちょっと変えると全部(崩れる)。

池田:気持ちが分かるって言ったらタイに失礼ですけど、今回の準々決勝はそれがあったのよ。僕は、ハードボイルドが好きでよくやるんですけど、今回ちょっと下ネタだったんですよ。それが、もしかしたら“らしくない”というか……。
だいぶ前、親父に『お前らのネタを観ていると、最初緊張するんだよ』って言われたんですよ。“フリで緊張させてんだ”って頭にこびりついていて。だったらもっとバカバカしくしようって、その(下ネタのある)コントを準々決勝に持っていたら、だいぶフォームが変わっちゃったみたいで、サイドスローになっちゃった。『アイツ投げる前に背中見せたぞ』みたいな。

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『キングオブコント』は先輩後輩関係なしのガチ喧嘩

タイ:出るのをやめていった先輩たち、全員出てくれないかなって思うんですよ。準決勝って、すげー先輩たちと同等で喧嘩している感じが楽しいんです。
読んでいる人しか分からないですけど、俺のイメージだと準決勝って漫画『幽遊白書』の魔界統一トーナメントをやるときに、浦飯幽助が黄泉のところに国宝石を持って行って『国とか関係なしに喧嘩やろうぜ』っていう。その感じですね。

池田:(笑)。俺もそうだから嬉しい。『バチバチにやろうよ』っていう。“あれ面白かったな!”とかネタのアドバイスとかなしで、全員芸歴なしにやろうよみたいな。

タイ:その反面、優勝しないと抜けられないデスゲームっていう一面もあるし、デスゲームだけど楽しんでいるというか。だからいろんな先輩に出ていただきたいですね。

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ーー逆に、公の場だからこそ、池田さんがタイさんに聞いてみたいことはありますか?

池田:“このネタ、あの人とかぶってねーかな?”って思うとき、どうしている? 書いているときに思うこともあるし、舞台でやってみてウケたけど“このしつこい系はあの人たちみたいだな”とか思うときがあるじゃん。こういうとき、僕はだいたいそのネタを完全に捨てるんですよ。

タイ:先にウケたほうが市民権を得られるので、その人のネタを見て“勝てるわ”と思ったらやります。でも、ネタはできたけど、あっちの方が面白かったり、バチバチ気持ち入るやつじゃなかったら捨てちゃいますね。

ーー準決勝と決勝は同じネタをしなければなりません。ネタを披露する場が準決勝はライブホール、決勝はスタジオと、場所の広さ、お客さんの数なども全然違います。ネタ選び、見せ方、間など、意識している部分はありますか?

タイ:(18年に)決勝にいけた年に近づけば近づくほど、ヨシモト∞ホールでウケるようになったんですよ。昔は、作家さんとか芸人さんは面白いって言ってくれるけど、無限大の若いお客さんに全然ウケなくて。
でも、無限大でウケるようになったからって、準決勝でウケなくなるってこともなくて、どちらも笑ってくれる。“最強じゃん!”って思ったんですよ。それで決勝に行ったんですけど……あの審査員の5人にハマらなかった。

ーートップバッターっていうのもあったんじゃないですか?

タイ:あったけど、もうちょっとうまくプレゼンできたんじゃないかなって思います。

池田:僕は、なぜか分からないですけど、準決勝と決勝のネタは変えたいですよね。『キングオブコント』の決勝のセットと、準決勝の(背景が)黒幕ってだいぶ違うというか。決勝は電球の数が多すぎるなって思ったりしたんですよ! それに合わせてネタを作ればいいんですけど、ただそうすると“準決勝でどうなるんだろう?”ってことなんですよね。
『池田はあの5人が場所によって審査を変えるって言ってんの?』ってなるかもしれないですけど、そういうことじゃないです。『両方でウケないネタ作れないってことですね? 白旗ってことですね?』って言われたら……白旗なんですよね!

タイ:あれはムズイですね~。テレビなので、暗いとね……。準決勝でも電球をつければいいんですよね(笑)

池田:確かに! いつも準決勝の会場だった『マイナビBLITZ赤坂』はもう終わるので(営業終了)、次の準決勝の会場は電球を多めにつけられるところがいいんじゃないかと思いますね!

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好きなネタ、決勝にいけるネタ 
「一番やりたいネタはやっていないかもしれない」

ーー過去にファイナリストになった2組。準決勝と決勝にいけたネタの明確な違いについて考えたことはございますか?

タイ:僕の中で決勝にいくかどうかのラインというよりは、いいネタほど書いていて心地がいいです。ここボケて、これを入れて、ツッコんで……とかやっているときのリズムがいいですね。

池田:じゃあネタづくりのときも、リズムを意識したりしてんの?

タイ:そうですね。“Aメロ長いな”、“ここ短いフレーズできてくれたら心地いいな”みたいなことは考えています。

池田:俺はそれがないんだよね。分かんないんすよ。“しつこさがなかったのかな”とか“フレーズをもうちょっと考えたほうが良かったのかな”とか、真面目に分析してみたりもしたんですけど、決勝を見ていて、個人的に面白いと思うネタが自分たちのネタと全然種類が違うんで……。というか、自分の好きなネタっていうのが最近ちょっと分からなくなったというか。

ーー(笑)。

池田:こんなこと言ったらあれですけど、一番やりたいネタはやっていないかもしれないですね。

タイ:確かに。自分が好きなネタってあんまりウケないですよね。決勝行ったあの年のネタは、みんな『好きだ』って言ってくれるんですけど、自分の中では、嫌いじゃないけど、全部好きって感じでもない。

ーー冒頭でおっしゃっていたように、自分の好きなネタをかけたけども、結果に結びつかないというか。

タイ:去年準決勝で負けたんですけど、2日目ただ自分が好きなキャラをやって、めっちゃスベったんですよ。そこでようやく“準決勝で振りかぶれたな”って。“(先輩たちがやっていたことって)こういうことだったんかな”って思いました。でもそのネタは劇場でやったらめっちゃウケる日もあるんですよ。

池田:優勝している人たちが1組でもつまんないネタがあったらいいんですけど、正直、穴がないんですよね。だから結局面白いか・つまんないかだし、自分の好きなネタとか嫌いなネタじゃなくて……優勝すれば面白いって思われるんだっていう。なんだろうね。好きなネタと決勝にいけるネタ(の違い)って。

タイ:(やりたいことを)我慢してめっちゃウケるネタがあったとして、それはやっていて面白いんかなって思います。生きていて面白いんかっていう。それで売れたら地獄ですよ。でも、だから(自分たちは)売れないのかもしれないですけどね。

池田:まだ人生折り返しかもしれないですけど、死について考えたりすることがあるんですよ。死ぬ前に“あのネタやっておいたら良かったな”って思いたくないじゃないですか。
そんな極端な話じゃなくても、芸人を辞めたときに、“あのネタやっておけば!”とか言うの嫌。だから“死力を尽くして出し切りたい”っていうのはありますけどね。

タイ:死ぬときに“芸人になりたかった”って思わないためにこの世界に入ったのにっていう。

池田:そうよ。『キングオブコント』に関しては、そこまで考えちゃいます。


しずるとやさしいズは◯◯…
タイが言いたくなかったことを告白

ーー話を戻すと、自分の好きなネタとウケるネタの中間を掴めればいいんですかね。

タイ:そうですねー。いまは微調整して、どこを凹凸にするか迷っているところですね。あと、しずるさんが面白いのになんで優勝できないのか分析したんですよ_。これは僕たちにも言えることなんですけど、『少年ジャンプ』感がない。俺たちは(青年誌の)『モーニング』なんですよ。

ーーなるほど……。

タイ:これ、あんまり言いたくなかったですけど、傾向としてですね。特に2015年から優勝する人は『ジャンプ』なんです。2014年までは『モーニング』のほうが優勝していました。だって『モーニング』好きなヤツらが審査していたから(芸人審査だったため)。(2015年からの優勝者は)コロコロチキチキペッパーズ、ライスさん、かまいたちさん、ハナコ……みんな『ジャンプ』。

池田:インポッシブルくらいになっちゃうと『浦安鉄筋家族』になっちゃう(笑)。

タイ:同期のサンシャイン(坂田光、のぶきよ)は『コロコロコミック』なんですよ。もうちょっと画が変わったら『ジャンプ』になると思います。僕らが決勝に行ったときが一番『ジャンプ』に近かったと思うんですけど、あれより『ジャンプ』っぽくしないとなって。

池田:ムズいねー。

タイ:結局いま『ジャンプ』が一番面白いですからね。だからこそ優勝するって難しいですよね。

池田:いろんな要素を考えると、パンクしちゃうんで、すごくウケるネタを作ってそれで優勝できたらいいよね。それだけだよ本当に。

ーー(笑)。最後にお聞きします。やさしいズさん主催で、しずるさん、うるとらブギーズさんがゲストの新ネタイベントが開催されるそうですね。

タイ:タイトルが『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』っていうんですけど。

池田:いいね~(笑)! めちゃくちゃいいじゃん。『ごめん』から始まるっていう。

ーー赤坂のTBSで開催された『キングオブコント』にかかっていると。

タイ:今年いいネタができなかったんで、ちょっと気合い入れるかっていう。2年前、決勝に行けてバイトをせずに生活できるようになったら、完全にお酒を飲み過ぎるようになってしまったので……。
決勝行った年、決勝に行きたいし、バイトもやめたいからめちゃくちゃネタ作りしていたんですよ。この2年間遊びすぎたんで、それを引き締めるために、もう1回決勝に行って、赤坂に忘れ物を取りに行こうっていう新ネタライブを。僕らが新ネタ3、4本やる間に、ネタを1本ずつやってもらう形です。

ーーライブの詳細を聞いていかがですか?

池田:絶対に俺たちが1番ウケます!

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ーー(笑)。

池田:俺から言わせれば、お笑い第7世代、なんとか世代とかたくさんいますけど、ぐるっとまとめて丸めりゃ全員肉団子ですから。その誰よりもウケます!

タイ:ははは(笑)。さいっこうのゲストですね! 笑いあいながら殴れるっていう。

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ーーありがとうございました!


インタビュー終了後「だいぶしゃべりましたね「恥ずかしい話ばっかりしちゃったなと照れるほどたっぷりと語らった2人。彼らの戦いはすでに始まっていますが、まずは『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』で本気を見せてくれるはず。ぜひ足をお運びください。

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しずる
NSC東京校9期生。池田一真と村上純のコンビ。2003年結成。
やさしいズ
東京NSC16期生。佐伯元輝とタイの同期生コンビ。2011年結成。


『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』
会場:ヨシモト∞ホール
日時:10月29日(木) 20:45開場/21:00開演
出演:やさしいズ、しずる、うるとらブギーズ

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執筆/浜瀬将樹 撮影/映美

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