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「お笑いだったら勝てるんだ」そいつどいつを前に進ませた“自信”と互いへの信頼

今年、初となる「キングオブコント」決勝進出を果たしたそいつどいつ。
勢いに乗って、12月25日には単独ライブ「すげぇよこいつら」を草月ホールで開催する。
「決勝にはいけない運命なのかな」と思っていた2人が現在につながる自信を得たターニングポイント、そしてその後に訪れた再びの暗黒期をどう乗り切ったのか。
そこにあったのは互いの才能への信頼だった――。

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――12月25日、初となる草月ホールでの単独ライブ「すげぇよこいつら」が行われます。チケットの売れ行きが不安だとツイッターでずっと嘆いていますね(本取材は11月下旬に実施。現在は会場チケットは完売)。

松本:そうなんですよ、恥ずかしいことに。ファイナリストになったら売れると聞いてましたよ。

市川:どうなってるんですかねぇ。

松本:「キングオブコント」ファイナリストになったときに「草月ホールでやらないか」ってお話をいただいて、僕は「埋まらないんじゃないかな……」って渋ってたんです。でも周りとか相方が「やったほうがいいよ、絶対チケット売れる」って言うから「じゃあやろうか」ってやったのに。なんだよそれ。

市川:はい、僕のせいです(笑)。

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――普段は単独ライブが年に1回のところ、今年は2回やることに。

松本:「キングオブコント」終わってからちょっと忙しくさせてもらってて、まだ準備の時間があんまりとれてないんで、今から追い込みの時期っすね。


――今年はやはり「キングオブコント」決勝初進出が大きなトピックだったと思います。目標だった舞台を経験して、自分たちの中で変化はありましたか?

松本:あんまり変わってない気はしますね。でもハートは強くなりました。『ラヴィット!』(TBS)みたいな生放送とかお笑いのストロング系の番組にも呼ばれるようになって、そこでめちゃくちゃスベったりしてるんですけど、気にならなくなってきた。今までだったらもう寝れんくらい凹んでたと思うんですよ。打席が増えるってこういうことなんだなと。

市川:変わったといったらそれくらいですよね。ネタやる上でのことはずっと変わってなくて、ただ「面白いのをやる」ってだけだし。

松本:そうっすね。決勝の場ではストーリー性の部分を指摘されたんですけど、そこを気にしすぎてもなぁ、って。だからネタの作り方を今までと変えたりもしてないですし。

市川:短距離走から長距離走に転向するようなことってなかなかないと思うんで。短距離走のままですね。

松本:ん?

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市川:ん?

松本:そっか?

市川:うん。ん?

松本:喩えがしっくりこない。

市川:あー、オーバースローだったのがアンダースローに変わるみたいなのは違う、ってこと。

松本:あぁ、そっちのほうがいいな。


――『オールナイトニッポン0』(ニッポン放送/10月16日放送)では「負け癖がついてきてるんじゃないか」という話をされていたと思います。

松本:優勝を味わったことがないんで、イメージがつかなくなってきてるっていうのはあるかもしれないですね。どんな気持ちなんだろう。人生の中でトロフィー持ったことがない。なんかちっちゃい大会でもいいから優勝しておかないといけないな。

市川:2019年に「ABCお笑いグランプリ」で初めて決勝いかせてもらったときに「あ、こういうことあるんだ」って思ったんですよ。そういうことは起きない運命なのかなと思ってたから。でもそこで決勝いけてから、わりといける流れが来た感じがしたんです。それこそ相方が言うように、一回何かで優勝したらどんどんいけるのかなっていうのはありますね。

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――「そういうことは起きない運命なのかな」というのは、2015年にコンビを組んでからの気持ちですか? それとももっと以前から思っていたことなんでしょうか。

市川:芸人始めて3年目でコンビ組んで、そこからネタで結構ウケたなと思っても結果がついてこなかったり、自信あっても通らないことが多かったんですよね。「なんなんだろう」って思ってたのが、「ABC」で「いけるんだ」ってなった。あれは僕の精神的にはだいぶデカかったと思います。松本はどう?

松本:小学校のときに公文で県の10番以内に入ったことがあるんですけど、それくらいしか……(笑)。中高の部活でも大事な大会で練習以上の力を出せなくて絶対負けてきたんで、「ABC」の決勝行ったときは「あれ、なんだ、俺できるじゃん」って思いました。「お笑いだったら勝てるんだ」って。ただ、そこから2020年でちょっと下がっちゃいましたけど。


――「キングオブコント」の事前番組でも、2020年の準々決勝でウケたと思ったのに落ちたことで自信を失った時期があった、と話していましたね。

松本:そうっすね。もう自信はないし、辞めてやろうかなと一瞬思ったりもしたんですけど。

市川:えっ、あぶな!俺ひとりになるところでしたよ、あっぶな。

松本:まぁ軽くは市川にも言ってたんですけど。


――そういうとき市川さんはどうしてたんですか?

市川:なんか言ってもねぇ、イラッとするだろうみたいな。僕は結構「まぁまぁまぁ、だいじょぶだいじょぶ」みたいなこと言うタイプなんですけど、言われても相方は「いや大丈夫とかお前は言ってっけど……」みたいになるだろうなと思って。でもずっと思ってることとして、相方は本当に真っ直ぐで、思ったことをガッとできるんですよ。僕なんか全然流されちゃったりするし、そんなに一生懸命やれる人ってあんまり見たことない。だから、自信なくなってるなとは思ってたけど「絶対面白いけどなぁ?」って思ってました。そんなに落ち込む必要ないなって。それに、相方がダウンしてるときに一緒になって落ち込んだら最悪じゃないですか。ネタも書いてないし落ち込むし、最低だなって(笑)。何か助けになれればとは思いますけど、やっぱりそいつどいつは竹馬のネタでガッとやってるんで。僕が何か言ってコロッと変わったり「やったー!」ってなったりする人だったら、もうダメですよ(笑)。ほんとそうだと思ってます。今日も高円寺で写真撮ったんですけど、めっちゃ嫌そうにしてて。

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松本:いや、勝手に決めてたんですよ、撮影場所。

市川:めっちゃ腹立ってるんだろうなって。

松本:レペゼン高円寺はいいけど俺を巻き込まんでくれ、巻き込むなら相談してくれ。最初に言うべきじゃないですか。

市川:でもちょっと待ってください、僕は「月刊芸人」の人から「高円寺でいい場所ありますか?」って最初に聞かれたんですよ。これは信じてほしい。「渋谷じゃダメなんですか?」って言いましたもん。

松本:相談してほしかったなぁ、一言でいいから。


――それは編集部がすみませんでした。

市川:ほんとに俺は「高円寺で」って言われたんだから! 相談したかったですよ! 勘弁してくださいよぉ〜!

松本:いやお前が言い始めたんだろ、「勘弁してくださいよ」じゃないよ(笑)。

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――本当にすみません! では話を戻させていただいて、市川さんはさきほど「竹馬が書くネタでガッとやってるコンビだから」と自分たちを表現していました。一方で、コンビの魅力として市川さんの演技力が高いというところをピックアップされることも多いですよね。松本さんからすれば、コンビ組むときからそこに期待する部分は大きかった?

松本:そうっすね。演技もそうだし、顔がめっちゃ面白かったんで、組んだときから僕は市川を完全に活かすようなネタをつくろうと思ってました。今、市川が「演技力がある」って褒められるようになったのは俺からすると「良かった良かった」って感じですね。でも組みたての頃は演技力が高いとも言われてなかったし、髪型が辮髪だったんでやれるキャラが少なかったんです。そのあと坊主にしてくれて、さらに外の舞台で1人で17役やるような仕事を経験したことで演技の幅が広がって、コントも書きやすくなりました。


――せっかくなので当事者に聞いてみたいんですが、コントにおける「演技力が高い」ってどういうところを指して言われるものだと思いますか? 「演技力」という言葉の定義自体、人によって違いはあると思いますが。

松本:それが俺もよくわかんないんですよね。似合ってるかどうかかなぁとは思います。僕は全然演技力ないんですけど、カップルネタの彼氏役をやると先輩たちからすごい褒められるんですよ。だから僕でいう彼氏キャラみたいなものが市川はめっちゃ多いんじゃないですかね。似合うものが幅広くて、苦手なキャラはあんまりない気がします。あ、でも漫才はめっちゃ苦手ですね。“市川冬樹”が苦手です。

市川:本名言わないでよ。

松本:普段から市川刺身ってキャラを入れたりコントのいろんなキャラ入れてやってるんで、しゃべくり漫才になると「なんでだよ」とか言えない。

市川:なんか恥ずかしくて。うまくできてないって自分でわかるんですよ。超つまんねぇやつが言ってるわ、みたいな。しゃべるのが苦手なんで。だから友達も少ないし……。


――もらったキャラクターをやるほうがいい、と。

市川:得意かと言われたら別に得意ではないですけど、そっちのほうがやりやすいですね。


――松本さんからすれば、どこまでキャラクターの幅を広げられるか試してみる感覚もあるんでしょうか。

松本:それはありますね。ネタつくってて「こういうキャラできる?」とかは結構言います。「ちょっとやりづらい」って言われたら、無理にやっても面白くなくなるから「じゃあ前にやってたあのキャラでやってみて」って言ったり。

市川:やってみて違うと(松本が)めっちゃがっかりするんすよ。「こういう感じで」って言われてセリフ3行分くらいやって「う〜〜〜ん…………違うわ〜」って。悲しいですよ、めちゃめちゃ。やるときはこっちも手ぇ抜かないから「イエーイ!!!」とか全力でやるんで、「あぁ……」ってなったときは悲しい。意味わかってないのがいちばんつらいじゃないですか。でも大体そういうときは今言ったみたいに代替案を出してくれます。


――確かめながらレンジを広げていく作業なんですね。コントのキャラもさることながら、これからどんどんそれぞれのキャラクターも知られていくようになることと思います。個人的には、10月に開催された『マイナビ Laughter Night』チャンピオン大会で優勝できず「マイナビ賞」をもらって悔しがるお二人が面白かったです。

市川:竹馬が「全然うれしくないっすね!」って。

松本:「悔しいっすね」って言っちゃいました。あれ怒られますよねぇ。感情を表に出しすぎちゃうところがある。

市川:俺はあれは正直ウケてもいい言葉だと思ったんですけど。

松本:ウケるかなと思って言ったんですけど、マジでウケなかったな。みんな引いてました。

市川:で、俺もその後ガクガク震えながら「余裕〜」とかやって(笑)。まぁ僕らはノンフィクションコンビですから。

松本:もう、さらけ出していくしかないですね。チケット売れてないなら売れてないって言うし、悔しいときは悔しいって言って嬉しいときは嬉しいって言う。それでいくしかないっすね。

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■そいつどいつ
キングオブコント2021決勝進出、ABCお笑いグランプリ2年連続決勝進出。
稀代のひょうきん坊主・市川刺身とクールなのに憎めない(?)松本竹馬の2人が繰り広げる変幻自在で楽しいコント。
ドラマにも出演する刺身の演技力、竹馬の半端ない笑いへの情熱で業界人の注目も集める、ブレイク必至の第8世代筆頭コンビ!

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■撮影協力

Yonchome Cafe
東京都 杉並区 高円寺南 4-28-10 高円寺リリエンハイム 2F


■そいつどいつINFO

そいつどいつ第5回単独ライブ「すげぇよこいつら」
日時:2021年12月25日(土)18:00開場/18:30開演
会場:草月ホール(東京都港区赤坂7-2-21 草月会館地下1階)
出演者:そいつどいつ
料金:前売3,000円/当日3,500円/有料配信2,000円
※会場チケットは完売しております。配信にてお楽しみください。


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ライター/斎藤岬 撮影/越川麻希(CUBISM)
企画・編集/小林亜美・かわべり





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