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【8月号】「今しかこんなことないんでね」ーー人気急上昇のすゑひろがりずが自分を見失わないでいられる理由

2019年のM-1グランプリ決勝進出、さぁこれからテレビへ……という矢先にやってきたコロナ禍の中で、すゑひろがりずはYouTubeチャンネルで圧倒的人気を集めてみせた。「∞ホール時代の人気は底辺の底辺」という2人は、半年で激変した状況をどう受け止めているのか。三島が嘆く、南條の意外な変化とは――!?

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――∞ホールで発行しているフリーペーパー「月刊芸人SHIBUYA」の表紙と巻頭企画の予定だったのですが、昨今の状況を鑑みて残念ながらウェブでの掲載になります。

南條:紙じゃなくて良かったですよ。表紙にしてもらって余るより絶対いいですから。

――今なら余らないと思いますが……。

2人:いやいやいや。

――すゑひろがりずさんは18年3月に∞ホールを卒業されています。当時はどんな状況でしたか?

南條:トップ5におったのは、おかずクラブ、ニューヨーク、なっちゃん(横澤夏子)あたりでしたね。

三島:∞でいちばん兄さんくらいやったんですけど、ようチケット売ってもらってましたね。余らせてる人たちでじゃんけんして、自分の分を売り切って足りなくなった人に引き取ってもらうんですよ。

南條:東京来てからずっとチケット地獄でしたね。その頃買ってくれてた方は2人とかだと思います。さっき上(∞ホールエントランス)で写真撮りましたけど、上に良い思い出が一切ないんですよ。暑い日も寒い日も、開演ギリギリまでチケット持って「このあと、セカンドライブ始まりまーす!いかがですかー!」ってやってた記憶しかない。

三島:人気でいうなら底辺の底辺。

南條:「まぁまぁ、そらそうやろうな」みたいに、つらさには不感症みたいになってましたね。まさかそこで撮影する日が来るとはねぇ。

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――昨年の『M-1グランプリ』決勝で注目を集められ、春からYouTubeチャンネル「すゑひろがりず局番」で人気を博しています。

南條:去年くらいから全部噛み合ってる感じがして、怖いですね。

三島:怖いですよ。俺、もう死ぬんちゃうかなって思いますもん。

南條:死ぬくらいのカードもらってもうてるんですよね。

――そんなにも畏れを……。YouTubeで人気が出た大きなきっかけは『あつまれどうぶつの森』の実況だと思いますが、あの時期はいろんな方が『あつ森』の配信をやっていましたよね。その中で、注目を集めることができたのはなぜだと思っていますか?

三島:ガッチリ合ったんじゃないですかね。伝統芸能とゲーム実況がバチッと化学反応した感じがします。

南條:最初に「今日から『あつ森』やります」って告知動画をツイッターに載せたのが、すっごい伸びたんですよ。だから和風で『あつ森』っていう設定の時点でつかんでたんやなと思います。


――たしかに、『けも藪』や『バイオハザード』シリーズなど、すゑひろがりずさんのゲーム実況は2人の持ちネタである“和風変換”がすごくうまくハマっている感じがします。みなみのしま時代の2015年にインタビューをさせていただいたときは、南條さんが「正直、ツイッターでの告知を和風で書くのがしんどくなりだしてる」とおっしゃっていたんですよ。

南條:2015年当時!(笑)

三島:もうそんなん言うてたんや。

――でもそれを続けた結果として、今の即変換芸が磨き上げられたんだな、と思いました。

南條:このスタイルを始めて、ちょうどその頃4〜5年目くらいやったんですよね。最初は楽しくやってたのが、だんだん飽きてきて体が拒否反応起こしてる時期やったんやないですかねぇ。今はもうマジで染み込んでるんで、しんどくはなくなってきたかもしれないです。体内で血としてめぐってる状態というか。

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――4〜5月のYouTubeは毎日どんどん登録者数が伸びている状況だったと思います。そうした反響を、どう受け止めていましたか?

南條:僕は特に実感はなかったですね。舞台やったら満員とか出待ちが増えるとかでわかるけど、ただただ僕らは外出自粛しながら動画上げて数字の再生回数を見るだけなんで、そこまでは……。

三島:僕は怖かったっすね。「え、なんかおかしいんちゃうか?」って感じでした。僕の性格上、良いこと起こると「この先、何か悪いこと起こるんだろうな」って怖くなるんですよ。そんな人生歩んでなかったんで。『バイオ』やってるときは男性の登録者が多かったんですけど、『けも藪』から女性の方が増えて、比率が変わりましたね。

――そこが興味深かったんです。失礼ながら、以前の取材時からはちょっと考えられない人気ぶりというか……。

南條:ちょっと考えられないですよね、マジで(笑)。

三島:竜宮城みたいな状態ですね。

南條:目ぇ覚めたらなくなってるパターン。戸惑いますね。∞ホールのスタッフさんから「事務所にファンレター届いてます」って言われて箱で持って帰ったりするの、芸歴15年目でほんまに初めてなんで。人気の奴らがやってたやつ、これか!と。

――動画のコメント欄やツイッターの感想を見ていると、イヤフォンを分け合う姿も人気です。


三島:それねぇ、よく言われるんですけど、ほんとにたまたま最初のときに1個しかなかったんですよ。それが意外と女性の方から好評だったんで、黒子の人たちも「これはこれで、いっときましょう」ってなって。偶然の産物が良いほうに転びましたね。

南條:三島がイヤフォンのコードがあるのをすぐ忘れてのけぞったりするんで、こっちもイヤフォン取れるんですよ。だから僕としては早めに別個にしたかったんですけど、視聴者の方がなんせ「あれがいい!」と(笑)。

三島:わっかんないですよねぇ、何がええんやとは思います。

南條:何がええのか、着物おじさんの耳つなぎ。だから、どっかでみんなパッと冷静になって気づくでしょうね。「30代後半のおっさんがイヤフォン分け合ってんの、何がええねん」って。でもあそこに、秘密が詰まってるんかもしれないですね。あの違和感というか、それを面白がってくれてんのかなと思います。

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――置かれている状況が激変して、コンビの関係に変化はありましたか?

南條:今というよりは、三島がM-1の決勝のちょっと前に結婚したんですよ。それくらいからえらい運気が良くなってきてます。三島自身も柔和な感じになってきた。

三島:昔はよう「鬼みたいな顔してる」みたいなん言われたんですけど、今は「仏さんみたいな顔」って言われますね。

南條:大阪時代に占い師みたいな人に占ってもらったとき、三島が客前に立つと客席のすべてのお客さんの不安をひとりで吸い込んでるって言われて(笑)。たしかにネガティブな雰囲気をまとってたんですけど、結婚してからはマジでやわらかく、明るくなりました。この衣装も、三島の奥さんがつくってくれたんですよ! ほんとにめちゃめちゃよく出来てて、すごいです。

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三島:最悪、芸人ダメでも呉服屋の主人になれるなぁ。南條はねぇ、ちょっとかっこつけるようになってもうたんすよ。それがいやでねぇ……「色気ある」とか「かっこいい」とかちょっと言われ出して、クッとこう、眉間にシワ寄せた顔を……。M-1の事前VTRで、廊下パーッと歩いて顔をキメるカットがあるんです。その顔が評判よかったかわかんないですけど、気に入ってるみたいで。

南條:ええやろ、もともとM-1で出しててんから。

三島:おめでたい、うつけもんの感じでいきたいにもかかわらず、その後ろでクッと……。

南條:ちょっと、申し訳ないけど一回これを味わってしまってるのでね……圧倒的に鏡見る時間は増えましたねぇ。

三島:やめてくれ、もう。

南條:街なかのガラスとか見ますよ。ま、ま、これもね、今しかこんなことないんでね。15年あんなだったんですから、眉間にシワくらい寄せさせてくださいよ(笑)。

三島:(笑)。最近結構これを言ってるんでやらなくなってきたんですけど、言う前はやってました。

南條:でもまだ劇場にお客さん入れてのライブがほとんどないんで、実物見たときにいろいろバレるのを警戒してます。

三島:ずんぐりむっくりやしな。

南條:そう、ずんぐりむっくりがバレるのが怖いですね。

――まだまだ無観客配信が大半ですが、お客さんを入れてのライブもちらほら復活してきています。久々のライブはどうでしたか?

三島:南條は最初のセリフ飛ばしてましたね。

南條:飛びました。お客さんパンパンに入ってはないから緊張はしてなかったんすけど、なんかふわふわしてました。

三島:もじもじしてたな。無観客がほんっとに地獄なんで、少しであっても入ってくれてるほうがいいですね。

南條:営業とか劇場とかで揉まれてきたんで、それがないと調子は狂いますよね。やってる気がしないというか。早くパンパンでやりたいっすね。芸人全員そう思てると思います。

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すゑひろがりず 
ツッコミ・小鼓担当の南條庄助(座)、ボケ担当の三島達(立)
2011年に結成。NSC大阪校28期生。

■インタビュー動画 「BEHIND THE STAGE」



■すゑひろがりず祭り(8/10)
8/10(月)配信開始16:00 配信終了17:00
※見逃し視聴は配信開始から24時間後まで※
◆概要
芸人自ら選んだキャストと一緒にネタ&コーナーで盛り上がる、ヨシモト∞ホール夏の祭りウィーク!すゑひろがりず編!
◆出演者
すゑひろがりず、デニス、キンボシ、オズワルド




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ライター/斎藤岬 撮影/越川麻希
スペシャルインタビューMOVIE:CAMSIDE

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