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ゴリラ愛を深める~爛々萌々・後編~

前回、全力でゴリラ愛を語った萌々 。今回、京都市動物園さんにご協力いただきゴリラへの愛を、思う存分堪能してもらいました。

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――平安神宮の近く、京都市動物園は1903年に開園した東京の上野動物園に次ぐ、日本で2番目に古い動物園。そして西日本で唯一、ゴリラを飼育している動物園。日本初の繁殖に成功しただけでなく、日本で唯一の3世代飼育に成功している。

モモタロウを頭に、ゲンキ、息子のゲンタロウ、キンタロウの4頭の一家が住んでおり、彼らを長年飼育してきたのが、長尾充徳さん。
久しぶりに京都市動物園を訪れる萌々を待っていてくださった。
すでに浮き足立っている萌々は、長尾さんに質問をぶつけまくる。

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萌々:今日は本当に本当に嬉しくて。しかも長年飼育されてきた長尾さんにもお会いできるなんて……まずちょっと一家に会ってもいいですか?

――しばし、ゴリラ一家を見つめる……。しばしどころじゃない。
かなりの時間、見つめている。そしてやっと我にかえり。長尾さんに質問。

萌々:まずお聞きしたいのは、京都で暮らすゴリラたちの特徴はなんですか?

長尾:当園のゴリラ舎は2014年4月下旬に「ゴリラのおうち ~樹林のすみか~」として新たにオープンしたんです。これまでゴリラは地上で生活する時間が長いと勘違いされ、高いところに上ることができる施設がほとんどなかったんですよ。

萌々:そうなんですか! 確かにずっと地上でいる状態がどこの動物園も当たり前ですね。

長尾:私が、前京都大学総長でこの動物園の名誉園長である山極壽一先生と一緒に2010年、アフリカのガボン共和国へ視察に行き、ニシゴリラの樹上性の高さを目の当たりにしたんです。その時の観察を踏まえて、リニューアルする時にできるだけ昇降運動ができるような施設にしました。また、高カロリーな食事から高繊維質で低カロリーな食事にも変えました。

現在、当園で誕生した母親ゲンキ、上野動物園で誕生し、所有は千葉市動物公園で、そこから来てもらってるモモタロウ、そして長男ゲンタロウ、次男キンタロウの4頭が暮らしています。

新しい「ゴリラのおうち」に引っ越してからは、昇降運動などによりモモタロウは筋肉がたくましくなり、子どもたちも毎日天井にぶら下がったり、走り回ったりして、とても健康的になりました! これが、京都で暮らすゴリラたちの特徴ですかね。

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萌々:高いところにいるゴリラを見ることができる貴重な動物園でもあるんですねぇ。それぞれのクセとかありますか?

長尾:まずはモモタロウですが、大の虫嫌いです。前の獣舎の時に出入口の横にカマキリが止まっていたら、夕方、部屋に入ってこられなくなったり、コバエが頭の上を飛び回っていたら必死で追い払ったりします。また、雨も大嫌いで、濡れて部屋に入ってくるとコンクリートの床に体をこすりつけたり、濡れた地面を歩くときは2足歩行で手に砂がつかないようにしたりします。

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萌々:虫が苦手って意外~! 今日は雨ですけど、確かに外には一切出て来ようとはしませんね…!

長尾:ゲンキは、いろんなことに対してあまり動じることがなく、まさに肝っ玉母さんのような印象を受けます。母は強しというところでしょうか。またとても食いしん坊でいつも餌を探しています。

まぁこれも歯の影響がありまして、実は虫歯でほとんど歯がなくて噛んで食べることがなかなかできず、飲み込む感じなので満腹感が得られない分、ずっと餌を探してるようです。だから糞も、普通は握り飯のような大きさなんですが、消化の関係でゲンキは長いんですよ。

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元々ゴリラはエナメル質が薄いので虫歯になりやすんですが、以前いたゴリラのゴンが、食べ物の影響もあって虫歯になり、歯が膿んで、痛がって、脳にまで膿が溜まり、頭痛に悩まされていたんです。その後亡くなってしまいまして、そのツラい経験があったので、食べ物を変えたんです。

果物などではなく牧草を食べています。ただゲンキは好き嫌いがあってイタリアンライグラスが好きなんですが、ヒエの仲間のグリーンミレットは好きじゃない。でもゲンタロウたちが食べているのを見て大丈夫だということで最近は食べてますけど。

ゲンタロウは、長男であり人工哺育で10か月半育ったということもあるためか、とても慎重派です。父親モモタロウの動きなどを常に見ながら行動している印象を受けます。

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キンタロウは見てすぐわかるほど次男としての性格がわかりやすく表れているように思いますね。大胆で怖いもの知らず、特にモモタロウのことはほとんど怖がらず、怒られてもそれを引きずる様子はなく、あっけらかんとしている印象です。でも気分によってはすごく甘えん坊になる時もあり、母親のゲンキにべったりとくっついていることもあります。

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萌々:行動を見てもお兄ちゃんの真似したり、お父さんとこへグイグイ行ったり一番ずっと見ていられる子ですね。では、ゴリラを観察する上で、こういった風に見るといいよっていうのはありますか?

長尾:ゴリラは進化の過程では私たちの祖先にあたると思いますが、擬人化してみようとしなくても,本当に私たちと似ているところがたくさんあるんです。

また特に当園のゴリラは、本来の野生ゴリラの群れと違ってメスが複数いないために核家族のような家族構成になっています。そのため、彼らを家族として見たり、それぞれを観察することで、性格の違いや家族の関わりなどが見えてくると思います。

萌々:ゲンタロウは人工哺育ですけど、やっぱりお聞きしたいのは、大変だったのは当然やったと思うですけど、そこも踏まえて改めて発見したことはありますか?

長尾:人工哺育のテクニック自体は人間を育てることとほとんど変わりはないので、大きな病気をすることもなく、すくすくと育ちました。だけど問題は心の成長でしたね。

人工哺育で2年以上もの長期間、人間が育ててしまうと自分を人間と思って育ってしまい、ゴリラの群れに戻すことができなくなって繁殖に関わることもできなくなるんです。

幸いゲンタロウは、10か月半で両親に戻すことができたんですが、それまで日本では例がなかったので、アメリカに行き、話を聞きながら、母親に戻す計画を綿密に立て、順を追って両親のことを怖がらないように育てていきました。

萌々:なんかそれだけで一大プロジェクトですね!

長尾:確かにそうです。まず彼自身が両親を受け入れてくれるか、そして両親がゲンタロウを受け入れてくれるのか、すごく不安でしたが、ゲンキの母性が強かったこともあり、すんなりと両親の元に戻ることができました。

ゲンタロウも今は9歳になり、両親にずっと育てられたような顔をして暮らしていますが、このように子どもを受け入れて育ててくれることを体験したことが大きな発見と喜びでしたね。

萌々:ゲンタロウ、私が前に来た時は、今のキンタロウくらいの時でしたから9歳と聞くと「あぁ大きなったなぁ」って、私もなんか母性が疼きます。9歳というと人間でいうと青年くらいですか?

長尾:高校生くらいかもう少し上くらいですかね。反抗期みたいなのが出てきて母親に歯向かったりしてね、人間同様ちょっと難しい年頃でもあります。

萌々:そうなんだ! では、人工哺育でゴリラにストレスを与えないために出した工夫やアイディアってどんなんがありました?

長尾:まずは母親と再会する前に、両親の匂いの付いた藁をかがせながら哺乳を行ったり、ゲンタロウに接する時は、私を含め飼育員が黒い服を着て、黒い色が安心する色であることを教えたりと、飼育員たちが父親役ではなく母親役として育てることを心掛けましたね。それは母親というのは子どもたちにとって、安心して新しいことにチャレンジできるための安全基地という大切な役割があるからなので。

萌々:これから京都のゴリラをどうしていきたいですか?

長尾:国内には6つの動物園で20個体しか暮らしていないんです。もう京都だけのことを言っていても先は見えています。国内の動物園、もしくはアジアの動物園が協力しあって、欧米に働きかけることが大切になります。

また現在、日本で暮らしているゴリラたちを健康に飼育管理するためにハズバンダリートレーニングといって、麻酔をかけずに心電図を撮ったり、聴診したり、血圧を測ったり、採血を行ったりできるようになりました。

ゴリラたちがストレスなく健康のチェックができ、動物園に足を運んでくださる方々に対して良いコンディションのゴリラたちをご覧いただいて、その魅力、すばらしさを知ることで、ゴリラの保全にまで関心がいってもらうことができればと思っています。

萌々:今日は本当にお忙しい中、ありがとうございました。もうさらにゴリラへの愛が深まったのは確かです。また長尾さんを訪ねてモモタロウ一家に会いに来ようと思っています!

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取材協力:京都市動物園


今回、インタビューにご協力いただいた長尾充徳さんの最新著書が発売中です。
「ゴリラのきずな~京都市動物園のゴリラファミリー観察記~」
(くもん出版 1540円発売中)

■爛々 プロフィール
萌々(もも)と大国麗(おおくにうらら)の女性コンビ。
萌々の特技は、魚をさばく、トランペットを吹く(歴10年)、空手初段、 絵を描く、デザインや動画編集、 激安の服を着こなす。
大国の特技は、お洒落、服を売る、お化粧、歌を歌う、京都のいいとこ紹介、美容院でひと言も喋らずにいられる、ペルシャ絨毯の良し悪しを見分けられる。

爛々INFO

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取材・構成/仲谷暢之
写真/長井桃子
取材協力/京都市動物園


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