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カベポスター・永見大吾 『どこかでだれかの一分』

パン屋さんの方々、おはようございます。
その他の方々はこんにちは。カベポスターの永見です。

私事ですがこの間うんこを踏みました。
それはそれは一瞬の出来事でして、
短い時間でもこの世界の誰かにとってはこんな濃い時間があるんじゃないかと思い、「どこかでだれかの一分」というタイトルにしました。

一分で読めるというわけではなく、一分間の出来事の物語です。
勘違いしないでもらいたい。

00:00”
 里奈は台所に椅子を置いた。

右手でガスコンロに置いていた新品の電球を手に取り、空いている左手で背もたれのてっぺんを握り、右足を上げて椅子を乗せた。
そして、右足を少し踏み込んだ。
靴下と椅子の滑り具合が少し怖くなったので靴下を脱ぐことにした。
右手の電球をガスコンロに置き、右足の靴下を椅子の上で脱いで後方へ軽く投げ飛ばした。

00:10”
 里奈は素足と椅子の滑り具合に頼りがいを感じた。

それはあまりにも頼もしかったので、左足の靴下は履きっぱなしでいけると里奈は思った。
また右手でガスコンロの電球を手に取り、左手で背もたれのてっぺんを握り、素足の右足で椅子を踏み込み、靴下の左足も椅子に乗せた。
そして、椅子の上で左手を背もたれのてっぺんから離し、天井の古くなった電球へ伸ばした。

00:18”
しかし、届かなかった。

爪先立ちをしたら指先でかすかに触れるぐらいだった。
この自分の低い身長を味わう瞬間。里奈にとってはお馴染みの嫌な気持ちになった。
「年齢確認できるものお持ちですか?」とレジの向こうから目線を下げられながら言われる瞬間。
先頭でみんなと違う前ならえのポーズをしていた瞬間。
あの時と同じ気持ちだ。

00:23”
そう思いながら、椅子の上で軽くしゃがんでまたコンロに電球を置いた。

爪先立ちで両手を使ったらギリギリなんとかなりそうだった。
しかし、爪先立ちをキープすることになると、左足の靴下と椅子の滑り具合が少し怖くなったのでやはり左足の靴下も脱ぐことにした。
左手で背もたれのてっぺんを握り、右足だけをゆっくり床に戻し、左足の靴下を椅子の上で脱いで、

00:34”
後方へ強く投げ飛ばした。

そして、左足で椅子を踏み込み、右足を椅子に乗せ、要するに椅子の上に乗った。
両手と両踵を上げて指先で電球を反時計回りに回していく。
ものすごくしんどい体勢だったので、早く回り切ってほしいと願っていると、覚悟していたよりも早く手元の電球が取れた。
突然の終わりに張り詰めていた体が驚き、

00:45”
右膝でガスコンロを強く蹴ってしまった。

右膝の衝撃で手元から溢れる古い電球。
同じ衝撃でガスコンロから溢れる新しい電球。

00:47”
いつの間にか強くつぶっていた目を開くと、

椅子を囲む白い破片。
離れたところに一投目の靴下。
記録を更新した二投目の靴下。
さっきまで頼りがいがあった素足。

00:50”
里奈は自宅に突如現れた孤島で、お馴染みの前ならえで立ち尽くした。

00:57”
右手を伸ばしガスコンロ横の冷蔵庫を開けて、

00:60”
左手を伸ばしビールを手に取った。



■カベポスター プロフィール
NSC大阪36期生の永見大吾(ながみだいご・左)と浜田順平(はまだじゅんぺい・右)のコンビ。2014年結成。
2021年「第六回上方漫才協会大賞」新人賞受賞。

カベポスターINFO

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著者/ カベポスター・永見大吾

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