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外出自粛のあいだ、「オンライン演劇」はこうして生まれた


はじめまして、劇団テレワークと申します。4月5日に旗揚げをして、これまで計8回の「オンライン演劇」をYouTube LIVEで催してきました。

この1カ月、私たちのような新しい団体だけでなく、ドラマ・映画に携わる著名な俳優や映画監督も「オンライン演劇」を企画していました。家にいるだけで作り上げるのは、制限と障害だらけで悩ましくもありましたが、振り返るとたしかに"新しいエンターテイメント"だったように思います。

緊急事態宣言の解除が見えてきた今、これまで劇団テレワークが全力を尽くしてきた「オンライン演劇」とはなんだったのか、どうやって作ったのか、今後どうしていくのか、改めて記していきます。

語りは、劇団テレワークの第0回、第1回本公演の演出・脚本を担当した森翔太です。

森翔太
1983年生まれ。鳥取県出身。演劇活動を経たのち、2012年より独学で映像製作をスタート。「仕込みiPhone」がYouTubeで300万回以上再生され、国内外のメディアで取り上げられた。シュールかつコメディ要素の高いドラマや、フェイクドキュメント・パロディの手法を多く取り入れた作品が特徴。第17回メディア芸術祭「エンターテイメント部門」審査委員会推薦作品選出。Ars Electronica 【next idea】Honorary Mention入賞。
第0回本公演「ZOOM婚活パーティー」
「自宅にいながらでも出会える世の中に…!」そんな名目で開催された、怪しげなイベント、婚活zoomパーティー。そこに訪れたのも、どこか不穏な8人の男女。会話の中で浮き彫りになるそれぞれの本性。婚活の末に8人が出会うのは、素敵なパートナーか、それとも…?

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https://www.youtube.com/watch?v=FQdxAJxcIgs

第1回本公演「最高のテレワークマナー」
内気な新卒社員、町田華(まちだはな)の会社では入社初日からテレワークで研修が行われていた。ある日、華が同僚と話していると突然上司から「今晩、大切な取引先の接待にテレワークで同席してほしい」と告げられる。
そこで急遽集められたのは、社内で「マナー四天王」と呼ばれる、テレワークの達人たち。ところが、彼らの教えるマナーは理不尽なものばかりで……。果たしてテレワーク接待は成功するのか!?

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https://www.youtube.com/watch?v=FrvWkRBhHmc


ふつう2カ月かけて作る"演劇"を、2日で生み出す方法


「こんな状況だから、とにかく早く出すことが大事。2日で作ってほしいです」

プロデューサーからオーダーが振ってきたのが、3月末のこと。世間では「明日にでも緊急事態宣言が出されるのでは」と緊張した空気が流れている頃でした。

一般的に演劇は、2カ月ぐらい時間をかけて作り上げます。1カ月脚本、1カ月(または1カ月半)稽古、といった具合で。僕自身、劇団員の経験もあるので、2日間で何ができるだろうかと想像を働かせました。


そんな中、超特急で作ったのが、第0回公演「ZOOM婚活パーティー」です。


まず、基本的には全てあてがき。この人はこういう雰囲気だから、こんなキャラクターにしよう…と決め打ちで役を当てていきます。Googleドキュメントで共有しながら作っていたら、プロデューサーがどんどん加筆してきて。しばらく役者を振り回してしまったかもしれません。ですが、作り手の議論を役者が見える状態だったのはかなり新鮮だったのではと思います。

実際に使ったキャラ設定表.001

構成を渡して、全員で台本を作り上げていきました。ふつう、役者は「決められた台詞」があるものですが、このやり方には無くて。自分から発信していかないと、台詞が無くなっていくんですよね。だから、「僕はこのシーンでこう言います」「私はこのシーンでこう振る舞います」とどんどんアイデアが出てくる。意欲的な方ばかりでとても助けられました。

"台本"とはいえ、大まかな流れがあるだけです。細かなところはこだわりきれないので、アドリブが強い内容でした。だから、再演したら出来はまったく違うと思いますね。不安定な作りでしたが、ZOOMの画角がまだ珍しかった4月上旬だからこそ挑戦できた内容だと思います。

「ZOOM婚活パーティー」は8人の男女が登場し、それぞれの恋愛ドラマが交錯していく話ですが、見づらい部分もありました。オンライン演劇はリアルと違って、「いつまで続くんだろう」という、尺感のわかりにくさにストレスを感じるな、と。みんなアドリブが楽しくなっちゃうので、30分で想定していた内容が1時間になっちゃうんですよね。そこで、よりシンプルに、尺感がわかる構成にブラッシュアップしたのが、次の公演の「最高のテレワークマナー」です。


「このリアクションを、忘れないようにしてください」


「ZOOM婚活パーティー」と比べて、「最高のテレワークマナー」は1週間で作りました。5日も猶予が増えたことで、反省を生かした構成にできたと感じています。

まず、世の中が緊張した空気になっていたので、コメディものを作ろうと。リアルな舞台であれば、お客さんが笑ってくれて盛り上がるのですが、オンライン演劇はそうはいかない。リハーサルでは、スタッフ全員がオーディオONにしてゲラゲラ笑っているのを伝えました。そして、「このリアクションを、忘れないようにしてください」と何度か念押ししました。役者が家でひとりでも振り切れるように、先にお客さんの反応をインプットさせてもらったイメージです。

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次に、「ZOOM婚活パーティー」の反省を生かして、主人公を置いたのもポイントです。ZOOMの仕様上、誰かひとりの画面を大きくしたり、小さくしたりはできません。でも、主人公がいると、ZOOM画面上でも「誰に注目すればいいか」もわかりやすくなる。統一した画面サイズだからこそ、意識的に主人公・町田華に注目がいくよう流れを考えました。

最後に、物語の展開をオープンにしました。「最高のテレワークマナー」は、冒頭で「今夜の接待のためにテレワークマナーを身につける」「テレワークマナーを教える4人の講師がいる」と伝えています。お客さんは「4人の講師が出てきたら、最後に接待があって、この物語は終わるな」と、大体のイメージがつきます。オンライン演劇自体が新しいものなので、シンプルな作りのほうが伝わりやすいのです。尺感もわかるので、この構成に切り替えて正解だと思いました。

ご覧いただいた方は記憶に残っているかもしれませんが、公演中には、接続が一度落ちるというアクシデントがありました。オンライン演劇ならではのトラブルですね。お客さんにスタッフの声が聞こえ、役者は「僕が泣くところからでいいですか」と確認する。僕は内心ひやひやしましたが、面白くもありました。本当に生放送で、オンラインで、ストーリーを作っているということが伝わるシーンだったと思います。YouTubeのコメント欄でも、戸惑いより「すごい」「本当に生なんだ」という驚きのほうが多く見られました。

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役者にとって、オンライン演劇はチャンスかもしれない


僕自身、劇団員をやっていたので、役者にとってオンライン演劇はメリットがたくさんあると感じました。

とにかく、顔を覚えてもらいやすい。客席から見るよりも、ファンカメのように顔が映り続けているので印象に残ります。表情もよく見えるので、自分の演技を伝えるにはとても良いやり方です。東京の小劇場でしか見られなかった姿が、インターネット上にずっと残っているのもメリットだと思いました。劇場に足を運びにくい地方に住む方にも、ファンになってもらうチャンスが生まれている印象です。

稽古場に通わなくていいのもメリットですよね。平日夜、仕事終わりからでも稽古がしやすい。リアルでやろうとすると、1カ月間毎日通う必要も出てきます。オンラインにしたときの移動コストの削減は、役者にとってもかなり大きいのではと思います。

でも、やっぱり一番は、台本をきっちり覚えなくていいこと。一般の稽古でいう「台本を覚える」期間がありません。テーブルの上に並べたり、PCの横に貼ったりしていても、画面にさえ映らなければ大丈夫。「見ながら」「確認しながら」でも演じられるのは革命だと思いました。劇団テレワークが数日で公演できたのは、稽古にかける時間を短縮できたからです。(もちろん稽古期間があって覚えるに越したことはありませんが)


もちろん、デメリットもあります。収益が安定していないので、仕事としてはまだ成立していません。日々構成表や台本が更新されていくので、「集中できない」と意見をいただくこともありました。ZOOMの設定やカメラ周りなどを自身で整理してもらっていたので、ある程度の知識や慣れも必要でした。


そもそも演劇の世界の人たちは、配信に関してネガティブな印象を少なからず持っています。舞台があって、その場にお客さんがいて作品が完成するのが演劇の本質だからです。こういう状況になって、致し方なくオンライン演劇に挑戦された役者もたくさんいらっしゃるはずです。

劇団テレワークでも、多くの役者が(半信半疑で)参加してくれました。正直、そんなに乗り気ではなかったかもしれません。でも、やってみたら「面白いかも」と思ってもらえたようで………。外出自粛が新しい扉を開けてくれたように感じました。


ZOOMの画角に飽きてきたいま、「オンライン演劇」ができること


そもそも、"演劇"というワードが正しくフィットしていないように思えます。舞台の迫力を超えられるわけではないので、どうしても下位互換に見えてしまいます。では"映画"かというと、生放送で作っている点から、そうとも言えない。


ZOOMを通したエンターテイメントがこの1カ月でものすごく広まりました。最初は目新しく見えた画角も、もはやちょっと食傷気味です。僕が担当する次の公演は6月に控えていますが、アニメーション素材の活用や一人称視点など、今までとは違った見せ方や表現を考えています。

これから少しずつ外出自粛が解かれ、みんなが家から出始めた後も。新しいエンターテイメントとしてなにか残したい、残るといいな、と思っています。


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劇団テレワークが出演協力しているライブシネマ「迷宮クローゼット」は5/23(土)21:00-開演です。ぜひリアルタイムでご覧ください!

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