「便箋」「サンバ」(2023/12/01)
携帯電話が鳴っている。
この携帯電話を買ったときは胸が高鳴ったものだ。
ボディが鮮やかな銀色で、整然と並べられたボタンのデザインも良い。なにより歌が好きな私にとって「着うた」という機能が嬉しい。
しかし私は今、携帯電話が鬱陶しくて仕方がない。あれだけウキウキしながら設定した一青窈も、今では私の神経を逆撫でするだけになってしまった。
歌好きが高じて作詞家を名乗るまでになれたのは良いものの、所詮はまだまだひよっこである。仕事は選べない。
机の上にふと目をやると嫌でもある書類が目に入る。今回の作詞について諸々が書かれた企画書である。もうずっと、何度もその曲のタイトルを見て絶句する。こんな右も左もわからない新人に、何故こんな無理難題、もとい禅問答のような問いを押し付けるのだろうか。
割れるように痛む頭を抱えて、それでも催促の「ハナミズキ」が鳴り響く。
いつも作詞に使う原稿用紙ももう底をつき、手近にあった便箋に顔を突き合わせてもう何時間になろうか。
時計を見ると、タイミング良く鳩が出た。もう一刻の猶予もないという合図だった。
もうどうなろうと知らない。私は観念して、というよりもこの仕事と向き合わなければならない運命に怒りすら向けて、やっつけで歌詞を便箋に書き殴った。
叩けボンゴ、響けサンバーーーーーーーー
お題提供:ピカソケダリ メロス(便箋)/ポポポ(サンバ)
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