「シャベル」「星」(2023/12/05)

 今日は友人と山に来ている。
近場ではなく、あえて車で数時間はかかる山まで来るところに、いつもとは違うぞという気概を感じる。

 かなりの山奥まで来た。
 冬だというのに友人は滝のような汗を拭っている。対して私は体が少し冷えているくらいである。
 友人は疲れているだろうに、シャベルを持ち出し必死に穴を掘り始める。体に鞭を打って、シャベルに足をかけて土を掘り起こし横に遣る。全身を最大限に使って、必死に掘り続ける。
 私はそれを横目に、寝転びながら星空を見る。生い茂った木々の合間に見える煌びやかな星が大層綺麗で、生きるとは素晴らしいと思えた。友人も下ばかり見てないでこの星空を見れば良いのに。

 友人は穴を掘る手を止め、シャベルを乱雑に置く。空を仰ぎ一息つくと、友人もこの星空の荘厳さに気づいたようだ。目に溜まる涙が見える。
 友人は数分の休憩を終えると、私を穴に入れてまたシャベルを持つ。
 私はずっと上を見ている。光って見えるのは星か、汗か、涙か。わからないけれども、私の視界がだんだんと土で埋められていくことはかろうじてわかった。


お題提供:ピカソケダリ メロス(シャベル)/ポポポ(星)

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