「水引」「ジャラジャラ」(2023/11/25)

携帯のストラップを見る度に、祖母の言葉を思い出す。
「水引はね、縁起物なんだよ。人と人を結ぶ物なの。この花結びなんかは、何度でも結びやすいでしょう?何度繰り返しても良いという意味があるんだよ。きっと良縁に恵まれるから持っておきなさい」
そう言って渡されたのは手作りの水引だった。お世辞にも水引細工とは言えない、不細工な花結びの水引。祖母はそれをストラップとして加工したつもりなんだろうけれど、僕にはそれがただの紐にしか見えなかった。
病床に臥す祖母に、「ありがとう」と言うのが僕にできる精一杯の孝行であった。
それから数日経って、祖母は他界した。

ある日のこと、学校帰りの駅のホームで私は出会った。
巻かれに巻かれた長い髪に長いまつ毛、短いスカートに白いルーズソックス姿の女子高生が私の目の前に居た。携帯電話のボタンを素早く操作し、それに呼応するように大量に吊り下げられたストラップ類がジャラジャラと音を立てている。
一目惚れであった。この先の人生、これ以上の女性は現れないと僕の心臓が叫んでいた。恋は理屈ではないのだと、誰かが言っていた気がする。
とにかく話しかけなければとそれだけが先行するばかりで、頭の中は何もまとまらない。
やっとの思いで出た一言は、それはそれは酷いものだった。
「あのぅ、ストラップ可愛いですね」
初対面で、それもこんな場所で掛ける言葉として絶対に正解ではない。
これに返す彼女の言葉もまた酷かった。
「は?キモ……」
僕は自分のポッケから垂れる、花結びの水引を恨んだ。

あれから20年経った今でも、妻に「あの時はキモかった」と何度も繰り返される。
少なくとも僕が祖母に掛けた最後の言葉は、あれで正解であったと思う。


お題提供:ピカソケダリ メロス(水引)/ポポポ(ジャラジャラ)

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