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クロエ(短編小説)


劇団ロオル公演【モノクロ】より

クロエ スピンオフ小説

モノクロ公演DVD https://gekidanrole.thebase.in/items/2551608


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クロエ


自室に帰ると、何もかもを放り出して、シャワールームに籠った。
ドレスも装飾品もベッドに投げ出して、身一つでシャワーを浴びる。
化粧を落とすのもそこそこに、頭から熱い湯を浴びて、クロエは小さく息を吐いた。
こうしていると、とても心が落ち着くのだ。
この仕事は傍から見ればとても楽な仕事に思えるだろう。政治の会に花を添える役目、「政府高官秘書」とは名ばかりの愛人軍団、と軽んじられているのも知っている。
けれど、その実は。
実質国の政治は彼女たちの手によって廻っていた。

国は長い戦に国力を注ぎ、本来であれば国民は戦時下の苦しい生活を強いられるところだ。しかし、城下を見れば毎日賑やか騒ぎ。戦の真っただ中とは思えない生活をしている。
それは、クロエたち政府高官秘書室の工作によるものだった。
男たちには解らない国民の機微、それを敏感に感じ取ることが出来る彼女たちは、国力の低下は国民の生命力によると説いて、国の中に住まう国民には戦は終わったものと洗脳することを提案し、この三年間でそれを成し遂げた。
同時にこの国も権威を伸ばし、隣国たちを少しずつ飲み込みながら未だ支配を拡げ続けている。
外が思うよりも、内実は神経の磨り減る役回りである。
女たちを束ねるクロエは、より一層の気苦労もある。この自室での湯浴み時間だけが至福の時であった。
自室に戻れるのは数日に一度。その他のほとんどは、高官の部屋で夜を過ごす。
それも一つの仕事の内であり、事実上の休みは自室に帰ったその時だけであった。
「(それでも十分なのだけど、)」
白く塗ったエナメルの爪を眺め、冷たい壁に触れる。
「(汚い、)」

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