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昔隠し続けた夏キャンプ好適地にして最高の営地

この地を最後に訪れたのは2019年秋の事。


標高のある林間にして完全オートサイトで無料という素晴らしいスペックを持つ営地ではあるが…


スマホの電波が非常に弱く私達夫婦で運営する店の予約電話が受けられないという理由から足が遠ざかってしまったものだった。


その翌年だったか、その年だったのかは定かではないが、場所は非公開としていたのだが…私のブログ記事を観て…あの場所って◯◯高原ですよね?


気づいたキャンパーさんもいて、その方が7月に訪れた際、完ソロで虫が多過ぎてテントから出られなかったというエピソードを聞き、夏に行く所じゃないのだとインプットされてしまったのが運の尽き…

当時はそれほどにこの地を訪れる人は少なくひとたび人が踏み入れば虫の餌食となる場所だったのだ。


これほどの標高(1,000m)にして林間というスペックでありながら、足が遠のいてしまった事は我が家の夏キャンプに於ける損失だったかも知れないと今あらためて感じている。


その後、キャンプブームは頂点を迎えたわけだが、2020年くらいだっただろうか?某有名芸人を町で呼びイベントの開催がこの地で行われたのを機に…


完全にこのキャンプ地に足を運ぶ事はなくなった。無論、以降火が付いたように人が多くなった事は言わずもがな、それはそれである意味正解だったと考えている。

あれから5年

ブームはある程度の鎮静化を見せ、noterの先輩であるajasco氏の記事を観て再び足を運ぶ事にしたのは、昨年今年と続く猛暑に夏の行き場を無くしてしまったからに他ならない。


多くの方がこの地に足を運び、隠す必要も無くなった今、あらためてこの地のキャンプレビューを行おうと思う。


下界はと言えば場所によっては35℃という猛暑日だった。ジッとしているだけで汗が止まらないそんな一日。

四日前のこと、今年に入って妻がずっと患っていた病の診断がほぼ確定し、入院加療する運びとなった。



この記事中の病に妻はずっと苛まれ続け、つい五日前まで病名すら不明のまま通院加療をしていたのだが、このままでは埒があかないと別の病院を受診した所、放っておけば生命の危険があるとの診断を受け翌日入院する事となったのだ。

仕事が休めないため数日時間を貰おうと要望した妻だったが、担当医からは強く即日入院を促された経緯があったからだ。

何せ半年以上も診断が確定せず良くなっているのかどうかも分からないまま、ただひたすら抗生物質を処方され通院させられたわけだから医療機関に対し、信頼を寄せる事がそう易々とできない私達ではあったが今回の担当医の言葉は真意がどうであっても命に関わると言われたからには信用する以外なかった。

ただ、半年以上経ってようやく診断の確定を見た事実に、この先も分からないのに先が見えたという安堵が確かにあったわけである。

そんな経緯で、夫婦二人でやっている仕事は休業となり、コロナ禍の影響で面会も未だ週一に限定され一人自宅にてLINEの中の妻を励ます日々が始まったわけだが…とにかく暑い夏。

妻からは私の事は心配いらないからキャンプ行っておいで、との逃げ道が入院翌日から提案されたが、取り急ぎ足りない物や洗濯など一段落つくまではと自分には言い聞かせたものだった。

全てが済み落ち着いてみると…一人、酒を飲むくらいしかする事のない惨めな自分と向き合う事となった。

こんな時、どうすれば良いのだろうか?

それはキャンプ


こういう時こそキャンプ、妻の言う通りソロキャンプである。ソロキャンプの時間は否が応でも自分自身と向き合う時間となるわけで、今、必要なのはただ家で一人酒をかっ喰らうよりもキャンプだと、妙に納得しての出撃となったのだった。


食料の調達や氷、水など全ての買い物を済ませ一路現地へ向かう。

何度も通った事のあるルートだが人の記憶は実に曖昧で、現地看板が現れてからひたすら山道を登るのだが、登っても登っても現地はまだ遠く不安になるほど長い登りのルートだった。

その後、視界がパッと開けようやく見覚えのある石畳みの道路、そして駐車場へと辿り着いた。

テン場は管理棟脇を下ったメインのオートサイトと駐車場を挟んだ登りのデッキサイトの二箇所。

前日からの先客はオートサイトに一組いるだけで撤収中という状態なので今夜は完ソロになる事が容易に想像がついた。


デッキサイトは奥ならばデッキを使わずとも設営は可能であるが、非自立式のテントだった事とデッキ用のペグの準備がない事からオートサイトへ車を回し設営に入った。


標高1,000mの林間はとにかく涼しいの一言。  
下界は30℃超えだっただけに一瞬で命の洗濯をしている気分になれたものだ。

今回設営した幕は初下ろしとなる
ヘルスポート バランゲルキャンプ4-6
ノルウェーの老舗メーカーのテントである。
テンマクサーカスと同程度の大きさの参天でどちらかと言うとスカートも長く極寒の雪中キャンプ向きのシェルターだが、この地の涼しさならば夏幕としても問題はない


夕立ちを想定し、タトンカ3TCウイングタープを追加、幾ら気温は28℃と言えど標高の高さゆえの湿度は重さを感じるほどで動いている間は汗が止まらなかった。

夏のキャンプは標高を上げろとよく言うが…その代償が高湿度となる事は登山では常識かも知れないがキャンパーの間ではまだあまり知られていないと思う、ついでを言うなら紫外線も1,000mで10%強くなるため林間が吉である事は言うまでもない。

無論、下界の33〜35℃の中ではタープで日陰を作ってジッとしていても汗が止まらない事を考えれば多少湿度が上がっても気温自体が低い方が空間の快適さは勝る。


サイトを目一杯使っての設営だったが、普段二人で使用する道具での設営は大袈裟な尺がありタープは少し傾けてちょうど枠内に収まった。

虻や蜂、蝿はそこそこ多いが蚊やブヨはあまりおらずこの時期特有の虫の脅威はさほどではない印象だ。


早速、焚火台に火入れを行う


火が入るとサイトの印象はガラリと変わった。熱のせいでタープ下の湿度も幾分か下がったのが実感できたからかも知れない。

普段、夫婦二人でキャンプをしているのと違いソロはどこまでやるか?が自分次第。

当然のことながら全ては自分の責任なのである種、人のせいにできる夫婦キャンプの方が気持ちは楽だし時を持て余す感覚は薄いのだが、もし焚火がなかったとしたらキャンプ自体が空虚な物になる事をヒシヒシと感じたもの。


このタイミングで夕立ちが始まった。
サイトの上位置にある駐車場のアスファルトからは湯気が上がり白く煙っていた。

湿度は一層高くなったが、じっとしてさえいれば汗ばむ事はない。


晴れたり曇ったり目まぐるしく変わる空。

雨が落ちれば嫌な虫が居なくなり暗くなると共に活動する虫達も変わって行った。


新しいテント初張りの雨は想定外ではなかったけれど、すぐに乾くだろうという考えは甘かった。湿度が高い事と、林間である事が災いし雨が止んでからもずっとサイトは葉の雫が止まらなかった。

蒸し暑さを避けるため、この時間になり、ようやくテント内を作り終えた。


シェルターであっても普段は這う虫を避けるためと、地面からの湿気を嫌い床を必ず作るのが夫婦キャンプでのデフォルトとしてきたのだが今日はソロ

多少の結露や虫を極端に気にする必要はなく普段のキャンプがまるでグランピングである事をしみじみと実感するわけだが…こんな簡易さを悪くないと思うのは妻の不在のせい。



この半年、妻の病が何であるか?全く医者は分からず様々な診療科をたらい回しにされ続けてきた。

それでも分かる医者とは巡り会えず、妻には本当に苦しい思いをさせてしまったと思う。

静か過ぎる夜の始まりに頭に思い浮かぶのは半年間苦しみ続けた辛そうな妻の姿ばかり…頑張り屋の妻

それでもキャンプに来て美味しそうにレモンサワーを飲む顔を思い出し、やっとグラスに氷を入れる気になった。

30〜40m先には小川があるのだが水の音も聞こえず、ただ焚火がハゼる音と燃焼音だけが耳に届いている。

木立を隔てた空には先ほどバタバタと雨を降らせた雲が流れて行ったらしく遠くに航空機の音が微かに聴こえた。



愛猫を連れてのソロキャンプは今回が初めての事だが、車内での粗相や二匹の喧嘩には不安があったけれど、こうして山の中の完ソロという状況に心細さがないという恩恵を知った。

妻がいない寂しさも猫二人の世話に追われる事で考える事は少なくなっていった。



獣の気配や臭いは一切なく猫達も落ち着いている。

ただひたすらに火を焚き、ウィスキーのソーダ割りを口に運ぶ無の時間は酔いで頭の中が空っぽになり、電波もない事がより孤独を際立たせるのだけれど…こんな夜を待っていた自分も確かにいた。




半袖では寒いくらいの気温となり今宵の幕引きの時が訪れた




幕の中では子供達がテント上部に吊るしたランタンにたかる虫を目で追いかけている可愛い姿、これが今宵最後の絵となった。


やがて訪れた朝



鮮烈でかつ、煌びやかな朝だった。

九年前、夜仕事をするようになり、その後のキャンプでは朝がすっかり弱くなったけれど、夜明けと共に目覚めるキャンプの朝が昔は何より好きだった。

標高1,000mの林間は日中でも常に薄暗く、朝のこの瞬間だけ朝日が奥まで入り宝石を散りばめたかのような明るい林が出現する。


こんな朝を迎えたなら思考は自ずと前を向くしかない。

妻の事、仕事の事、考えたらキリがないくらい頭の中の整理はおぼつかない今だけれど、妻が退院したら絶対にここへまた連れてこようと強く思った。

標高1,000mの夏キャンプ好適地
福島県は川内村 高塚高原キャンプ場

やっぱりここ最高だ!

早く良くなって無事帰宅する妻の顔だけが頭に浮かんだ。

朝まで幕はビチャビチャのままだったけどね…

それがキャンプ


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