きっと忘れない花見キャンプ
4月の訪れと共に毎年西の方から聞こえてくる桜の便り。今年は早まるかと思っていたもののほぼ例年通りの東北の開花だった。
ちょうど私達が住む福島北部沿岸が満開を迎えた数日後に満開を迎える場所を検索しまくるわけだが、結局のところ山形に足が向き今季の山形キャンプのスタートとなるのは毎年の事。
今年も山形chaiさんの入念な情報を頼りに満開の桜の真下にビンテージCABANONの設営が完了したのは午後一時を回った頃だった。
ありがたかったのは前乗りしていたchaiさんからリアルタイムで現場の様子や安くて美味しい蕎麦屋を教えてくれていた事。
何せ、今年の花見キャンプは絶対に満開じゃなければならない理由が私にはあった。
2024年の年越キャンプの辺りから妻が身体の不調を訴えていたのだが、ここに来て仕事の継続が困難となるほどに事態が悪化しつつあった。
地元のクリニック数件を訪ね検査を受けても全く原因が分からず治療も受けられないまま病状の悪化は日を増す毎に進んでしまっていたのだ。
クリニックでは埒があかないと判断し、隣県の総合病院に直接相談をして受診する事になったのが3月、結果としては検査続きで無治療のまま症状は悪化する一方だった。
「今週キャンプは控えた方が良くないか?」
私の問いに耳を貸す事なく絶対に満開の桜をゲットする!と息巻いた妻だった。
今思えば、入院だとか最悪の大病だとか…万が一の想定を二人ともこの時に覚悟していたのだと思う。
それは二人で過ごす
最後の桜となるかも知れないという覚悟
だとしたら…これまでで最高の花見であって欲しいという思いをchaiさんに託し、この日、思い描いた通りの最高の桜をセッティングしてもらった事に今でも感謝している。
桜に囲まれたキャンプなら何度もあるけれど桜の木の下でというシチュエーションはこの上ない思い出だ。
見上げればそこには一輪も欠くことない完璧なソメイヨシノと愛猫こむぎの姿がそこに…。
妻の体力を削がないよう荷運びから設営に至るまでテント内のセッティング時以外は妻にはなるべく椅子に座っているよう指示をした。
それでもちょこちょことお手伝いを始めてしまう妻を見かねて声を荒げて座ってろってばっ
叫ぶ滝汗の夫の姿はハタから見れば一生懸命過ぎてさぞかし滑稽に見えただろうと思う。
chai家の奥さんが居てくれたお陰で妻の手持ち無沙汰は解消されてはいたが、そんな妻の姿を見るにつけ全てのシーンを頭に刻んでいる自分がいた。
chaiさんが用意してくれたのは山形県東村山郡に広がる最上川河川敷の無料キャンプ場
それはそれは見事な桜の名所であるが、人はそれほど多くなく穴場中の穴場である事を実感したものだ。
いつのまにか春鳥の囀りが少なくなっている。気付けばまもなく夕暮れの時間帯
この頃には、ただでさえ見物客の多くない河川敷には花見行楽を楽しむグループのほとんどが撤収でいなくなり、やがて静かにサイトは遮光に包まれていった。
思い返せばこれほど穏やかなひと時を過ごせる花見キャンプは始めての事。最上川河川敷の夕暮れが私達夫婦を歓迎してくれているーそんな事を思った。
桜の巨木に佇むビンテージCABANONは、まるで桜祭りによくある紅白幕のようでもあり、しっとりとしたお祭りの風情があった。
西陽を眺める我が子こむぎも満足そうな表情だ。
chaiさんご夫婦とは妻の病気の話に始まって息子さんの娘さんお二人の話などお互いの近況報告にまつわる話題で盛り上がるいつものパターン、これが心和むひと時なのは言うまでもない。
世の中や仕事や置かれた環境そして季節のように移ろうものは数あれど変わらない人間関係は心の拠り所なのだとしみじみ思う。
私達の他に誰もいなくなった桜の営地には笑い声が響き、それに呼応するかのように桜の花弁も笑って見えた。
日没を迎え入れる桜の美しさよ
このタイミングで横に伸びた太い枝にガイロープを二組かけそこにgoal Zeroを各々吊るした。一つはサイトを照らしもう一つは真上を照らし桜をライトアップ
その場の思い付きのアイデアだけど、これは久々の大成功の夜桜演出となった。
暖色の光に照らされた桜はピンク色に輝き日中観るソメイヨシノは八重桜へと姿を変えた。
妻の身体を冷やさぬようこのタイミングで暖まりの湯ひまわり温泉ゆ・ら・らへと向かった。
テン場から歩いて温泉に行けるというのがこの無料キャンプ場最大の魅力である。
今の妻にとって冷えは大敵でもあり、この日ここを選ぶ最大の動機の一つ
サイトへと歩いて戻り焚火を囲む時間となった。
人生には良い時も悪い時もある。妻の身体の事を思えば、最大の試練を迎える直前なのかも知れないのだけれど
大きな大きな桜の木の下で焚火を囲む今このひと時は、何物にも変え難い幸せの時間
こんな時、病という不安を抱えてなお素直にこのキャンプを喜び楽しむ妻はきっと今回の試練を乗り越えられるんじゃないか?
そう思う事にしてこの夜を閉めた。
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翌朝も抜けるような青空と超満開の桜が迎えてくれた。
昨夜まで隣に設営していたchaiさんのテントは既に無くなっていたーここからご出勤なのだ、お付き合い本当にありがとうございました。
キャンプテーブルの上にようやく一枚の花びらを見つけた。これはついに桜が最高の最上である事のサイン
朝日を浴びた頭の上の桜が美し過ぎて何度も何度もシャッターを押すこの春最高の朝
桜は人が見開くように目に見えて一回り大きく花開いていた
ゆっくりと時間をかけストーブで沸かした湯で淹れた自分焙煎のモーニングコーヒーには今本当のピークを迎えた桜達の微笑みがあった。
そうそう忘れていた事が一つ
全く見せ場のなかったもう一匹のキャンプ猫
だいずくんも元気でやってます。
少し仏頂面なのは眠たいせいか?この地とのお別れを惜しんでの事か?
素晴らしい一泊となった最上川中山緑地公園に感謝をしてさぁ撤収となるのだけれど、名残惜しくて普段のキャンプよりもとにかくゆっくりゆっくりと片付けをした。
色んな気持ち思いが頭にあったこの一泊はきっと生涯忘れないキャンプになるだろうと思う。
この場所をセッティングしてくれたchaiさんご夫婦、そして中山町にありがとう
妻はこの数日後、再び体調を崩してしまい四月後半は頂いていた予約(飲食店を営んでいます)の全てをお断りして休む運びとなった。ただ現在ようやく一歩ずつではありますが快方へと向かい始めました。
まだ油断はできない状況ですが悪くなる一方だったその体調が快方へと向かうきっかけの一つは恐らくこのキャンプだったと今は思っています。
抜けるような青空に笑い声
そして美しい景色と満開の桜🌸
それがキャンプ
はやく良くなってね
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