即興を教育に取り入れる

キース・ソーヤー、月谷真紀訳『クリエイティブ・クラスルーム 「即興」と「計画」で深い学びを引き出す授業法』英治出版、2021年。を読んで。


この本を読んだ理由は、にじまろさんの指導案をどう簡略化するか、という投稿を見たからである。そこで、この本が紹介されていた。私は即興という文字に惹かれ、読みたいと感じた。

そこで、この本を読んだ感想やポイントをまとめてみたい。


1.創造的な知識は浅い知識を学ぶことにも役に立つ、ということが一つ、ポイントだと感じた。
ガイド付き即興法で学ぶと、いわゆる詰め込み教育で教えられる単純で深みの無い知識までもが身に付けることができるというのである。詰め込み教育では浅い知識しか身に付けられないが、即興法では浅い知識は身に付けられるし、そこに+αで創造的知識までも身に付けることができるというのである。つまり、詰め込み教育はますます意味をなさないということであろう。

2.即興と言ってもすべてが自由というわけではない。この本では足場という言葉が使われていたが、設計された構造や制約があるなかで、ガイドをしていき、創造していくということである。
学ぶ側が学びやすくするための工夫であろう。すべて自由では目的意識を忘れ、結局この活動で何を学んだのだろうとならざるを得ないであろう。また、それでは一見自由かもしれないが、学習者は何をしたら良いかわからず、思考が停止しており、拘束されているようになり、かえって自由ではない。それを防ぐためにも教師によるガイドが必須なのであろう。

3.教師のキャリアについて、新米は手法をまず学び、数年たって次のステップに活かせる段階となり、最終的には自身で新たなカリキュラムや授業実践を創造できる、とのことが書かれていた。これはつまり、「守破離」ということであろう。

4.教師は教科内容の知識だけではなく、教科の教授法に関する知識を身に付けなければならない。
詰め込み教育を受けてきている人間からしたら、恐らく、その科目が得意な小中高生だと、私でも授業できるかも!と思うのではないだろうか。それで、教師を目指しました、という人もいるのではないだろうか。残念ながら、これからはそのような時代ではないのだということをこの本を読めば痛感するところだろう。教科の内容だけではどうにもならないのである。教授法にも詳しく、そして実践できるようになる必要があるのだ。つまり、教師は生徒に私でもこの授業できるかも、と思われないような授業が求められているのではないか。知識注入型ではなく、即興性のある授業を。


5.学期の初めには必ず、授業方式の説明をする。
特に、中学1年生、高校1年生には求められるのではないか。
入学当初に詰め込み教育は良くないということを伝え、ガイド付き即興法の学習を行うということを宣言をしておけば、それが生徒にとってはスタンダードになるわけである。ここはミスが許されない緊張の1時間となるであろう。ここで、生徒たちが不安に思うようになる、納得してもらえなかった、となると少なくともその後の授業では身の入った有意義な授業とはならなくなるであろう。ここは、教師は念入りに準備をし、全体像を生徒に示し、何を学んでほしいのか、何の能力を伸ばしていくのか、生徒の凝り固まった詰め込み教育信奉をどう変えていくのか(単純に生徒からしたら詰め込み教育は教師の話を聞いていればよいので、楽なのである)、話の内容、話し方を含め、準備を怠らないことが求められるだろう。

6.教師と生徒、双方が授業の演者である
この本では協働的創発という言葉で説明されているが、教師と生徒双方が即興を行うということである。一人で即興するのではなく、周りを巻き込んで即興することでより新たなものが創発されるというのである。

ここで、2022年3月30日の朝日新聞の13面の歴史総合 新科目の狙いという題名で、歴史学者の成田龍一さんのインタビューを参照したい。ここで成田さんは、歴史総合というこの4月からはじまる新科目を迎えるにあたって意見を述べており、その一つに「教科書の執筆者は脚本家。教師は演出家で、実際に解釈して演じる主人公は生徒たちです」と述べている。これは即興の考え方と似ているところがあるのではないかと考えられる。歴史事象を生徒が解釈したものを、ガイド付き即興法で協働的に学び、色々な生徒の解釈をその授業の目標とどう絡められるのかを即興的に考えたり、授業計画を臨機応変に修正したりするといったことが求められるのであろう。そういった面では、教師は演出家でもあり、同時に役者としてステージ上に立つのである。演劇の演出家も演者の台本の解釈や演技によって随時解釈を深め、修正している。そのことで、一つの演劇が完成する。それと同じように、授業も生徒という演者、そこに演出家兼演者である教師が混ざることで、協働的学びが促進され、一つの授業、つまり一つの教育が形成されてゆくのであろう。これが社会科の授業のみならず他教科でも同じようになればより効果があるだろう。この本によれば創造力は領域固有性があると述べられているため、一教科だけでガイド付き即興法を行っても効果はいまひとつなのであろう。

アクティブ・ラーニング(AL)が注目されている世の中なのだから、その一つの選択肢としてガイド付き即興法はとても有効な手立てなのだろうと感じた。


ここまでは、理論であり、理想論である。


これが実際の教育現場で実践されるのか。そこが結局はポイントだ。


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