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junaida展『IMAGINARIUM』レビュー

記載者:若原一葉 
京都市立芸術大学 美術学部 総合芸術学科3年


 現在巡回中の絵本作家junaidaの原画展は、2024年4月12日より市立伊丹ミュージアムにやってきている。junaidaとは、絵本を中心に挿絵や小説の表紙などを手がけている水彩画家である。有名な作品に『怪物園』『の』などがある。この展覧会の企画運営はブルーシープ株式会社が行っている。この会社は主に本の出版と展覧会企画を行う。他の企画同様、『IMAGINARIUM』もひねりのある興味深いものとなっていた。今回はjunaidaの制作への姿勢と作品のディティールとの繋がりを観察するのに加え、企画展示の様子も気になったので見ていく。
 
 
 企画は展示会場によって異なり、PLAY!MUSEUM2022年10月8日(土)―2023年1月15日(日)は4章に分かれており、「第1章 交錯の回廊 THE CORRIDOR OF MIXTURE」、「第2章 浮遊の宮殿 THE PALACE OF FLOATING」、「第3章 残像の画廊 THE GALLERY OF AFTERIMAGES」、「第4章 潜在の間 THE HALL OF DEEP WITHIN 」となっていた。今回は市立伊丹ミュージアムでの展示だったため、3部構成になっていた。特に印象に残ったのは、《LAPIS・MOTION IN THE SILENCE》の作品群が並んだ円形の会場だ。これは、PLAY!MUSEUMの円形の展示室で展示された「第2章 浮遊の宮殿 THE PALACE OF FLOATING」 に当たると考えられる。他にも、『怪物園』(福音館書店、2020年)の絵本のキャラクターたちが行進しているアニメーションのプロジェクションマッピングも展示されていた。また、展示室の外では、絵本『の』(福音館書店、2019年)の主人公「わたし」の赤いコートと帽子の貸し出しを行っており、子どもたちが主人公になることができ、展示室での写真撮影が可能だ。非常にエンターテイメント性が高く幅広い方が楽しめる展示であった。

円形の展示室に並ぶ作品。数と作品のエネルギーに圧倒される。


絵本『の』の主人公「わたし」


『の』の「わたし」になれるセットの貸し出しの様子

 junaidaはインタビューの記録が複数あるため、過去の記事や今回の作品展の図録に載せられたインタビュー記録から読み解けることが多数あり、個人的な生活にまつわるエピソードも含まれているため、人物像も想像しやすく、親近感が湧く。これらの記録を参考に作品との関連性を見ていくと、展示を見た後にも発見が多くあり、楽しかった。まずは図録『IMAGINARIUM junaida』(2022.10.8初版第1刷発行)に記載されたjunaidaのインタビュー記録を紹介する。

以下図録からの引用。


—— junaidaさんにとって「絵」と「言葉」は同じですか。

junaida 同じではないと思います。だからこそ、絵と言葉で構成された絵本というものの奥行きに魅力を感じます。むしろよく似ていると思うのは、絵本と歌ですね。絵本の絵はメロディで、言葉は歌詞、その逆もそうです。互いに影響しあって混ざりあって、新しい別のものに変化するところが似ているし、32ページの絵本と3分30秒のポップソングという、短くてシンプルという共通点にも興味があります。

絵本『の』原画 / 福音館書店 2019

 上記の発言に出てきた「歌」というのは、作品の中の随所に描かれた楽器などからもその意識が見てとれる。例えば、『TRAINとRAINとRAINBOW』原画(Hedgehog Books、2011)の中に出てくる青い虹のかかった場面では、王冠を被った少年がアコーディオンを弾いている。他にも『逆ソクラテス』装画(伊坂幸太郎、集英社、2020)には小学生の男の子がたくさんのリコーダーを抱えている様子が描かれている。他にも探すと見つかるが、ウクレレや太鼓などのシンプルで親しみやすい楽器を中心に描いていることがわかる。

『TRAINとRAINとRAINBOW』原画 / Hedgehog Books、2011
『逆ソクラテス』装画 / 伊坂幸太郎、集英社、2020

 このように、作品のなかに音の動きを感じられる工夫がされている作品が多く、その動きの自由さが物語の解釈を広げることにより、彼の絵本を開くたびに新しい発見ができるのではないかと私は考えた。また、『怪物園』(福音館書店、2020年)の絵本のキャラクターたちが行進しているアニメーションのプロジェクションマッピングは音と物語の融合がなされており、junaidaが言葉に見出してきた独自の感覚の一片を味わえるのではないかとも考えた。私自身も会場の作品には、明るいテーマの中にどことなく寂しさを覚えるものがいくつかあった。この感覚に関しては同様のコメントを残した方が他にもいらっしゃるようで、PLAY!MUSEUMによるインタビューでも言及されていたことがわかった。以下がそのインタビューの内容である。



——今回展覧会に関わったいろいろな方のお話をお聞きしていますが、みなさんjunaidaさんの絵には、「明るい」と「暗い」とか、「かわいい」と「こわい」とか、相反するようなものが一枚の絵に描かれている魅力があるとおっしゃっています。

junaida それは嬉しいですね。自分の中にずっとある感覚としては、表現するものの中に、たとえば「あたたかさ」と「冷たさ」が一枚の絵の中に半分ずつあったとしても、「ぬるくない」ものにしたいということ。どっちもあって混ざり合っているんだけど、互いを引き立て合うものでありたい。
闇を描こうと思えば、明るいものがないと描けないし、「やさしい」「あたたかい」を描こうと思ったら、「怖い」や「つめたい」ものがないと感じられないですよね。どちらかだけでは薄っぺらいものになってしまう。それがどちらなのかは、受け手が決めてくれればいいと思います。その人次第でよくて、そこを断定しないように描いているのだと思います。(PLAY!MUSEUMのインタビューより抜粋junaida-interview-junaida



 私たち鑑賞者が覚えた感覚は、つまり、一つの作品に相反するものを描いたことで生じていたということがわかった。彼の作品が強いインパクトを残すのは、そのような繊細な表現の工夫があってこそなのだろう。彼の作品へのひたむきな態度は図録やグッズの制作にも関わっている点からもわかる。どんな形のものであっても、制作において半端なことはしたくない、という彼の強い意志が会場の全てから伝わってくる展示であった。
 
 今回の展示は隅々までjunaidaの原画の世界観に没頭できる展示となっていた。中には立体作品もあり、「Hedgehog」2021で描かれた本棚は絵画の世界がそのまま現実世界に出てきたようであり、とても興味を引く展示だった。会場に入ってすぐにも写真ブースがあるなど、複数人の方が楽しめる仕掛けが多かったので、友人や家族とも一緒に訪れてみてほしい展覧会だった。

「Hedgehog」原画 / 2021


立体作品《WHO MADE WHO》/ 2022



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