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殺さない彼と死なない彼女(感想)

(画像は桜井日奈子さんのツイッターより)

上映終了間近ということもあり、朝9時に上映が始まる。滑り込みであったがなんとか間に合った。劇場内に客は自分を含めても10人に達しない程度で、映画館だというのに静かな印象を受けた。

映画が始まる。

「すべての眠れぬ夜に捧ぐ」

原作漫画の1ページ目を思い出し、たったこの一文で胸がいっぱいになった。
間宮祥太朗演じる小坂れいが窓際の席に座っているシーンで、最初に感じたのは光の柔らかさだ。後に知ったのだが、どうやらこの映画は照明部による演出を用いず自然光を使っているらしい。窓から斜めに入ってくる西日や、廊下や階段の少し曇ったような空気感に、自分の通っていた学校の古い校舎を思い出した。きゃぴ子の上靴が脱げるシーンとか、ああこういう上靴だったな、と鮮明に思い出した。

少し脱線するが、自分は邦画をあまり見ない。邦ドラマも見ない。今回この映画を見ようと思い立ったのは、世紀末さんの漫画に何度も眠れぬ夜を救われてきたからに他ならなかったのだが、この日本の校舎を舞台として、自分の記憶を呼び起こさせる映像というのはやはり、邦画特有のものであると改めて思い知らされた。いいな、邦画。邦画恋愛映画でおすすめのもにがあれば教えてほしいくらいだ。

一見恋愛がテーマのようにも思えるが、それだけではない。きゃぴ子がただカワイイだけの女の子ではないように。
私たちが中学高校のときに初めて「死ぬことって?」「生きることって?」「人を好きになることって?」と考えだした思春期真っ只中の自分を、答えが見つからず、ウジウジジメジメとしていた毎日を送る自分を、救われなかった過去で成り立っている今の自分自身を、それでもいいのだと、私たちは幸せになれるのだと言われているような、そんな救いを感じた。蓋をしていたずっと奥の心のもっとも柔らかい部分にそっと寄り添ってくれる映画なのだろうと思う。

キャストもキャラクターもよかったな。 鹿野なな、桜井日奈子さんの演技がすごい。ついさっき桜井日奈子さんがテレビに出演していたので見たのだがまるで別人だった。いや、映画のラストでもそうだ。別人というかキャラクターの生きる気力のような、生気を無くしたり溢れさせたりする演技がすごい、の一言。素晴らしい役者によって更に、感受性の豊かで寂しがりで死にたがりな鹿野ななというキャラクターが、たまらなく愛おしく描かれていた。イカ焼きに食いつくシーン、カワイイ

きゃぴ子は本当にきゃぴ子だった。ピンクが似合う小柄な女の子で、漫画からそのまま飛び出してきたようだった。可愛い。しかも「可愛いだけ」じゃない。
そして地味子、なんて、なんて素敵な子なのだろう。地味子はきゃぴ子がただ可愛いだけの女の子ではないことを知っている。一見まったく逆の人間だが、二人はお互いが必要なのだ。きゃぴ子がもしも地味子と出会わず独りで生きていたならば、心に開いた寂しさは埋まることなく、愛されることのみに執着し「一人で遊ぶことができない母親」と同じ道を辿っていたことだろう。きゃぴ子の母親に足りなかったのはもしかすると、地味子のような精神的に繋がりのある友人のような存在だったのかもしれない。

君が世ちゃん、もとい撫子ちゃん。囲碁部の八千代くんと囲碁をさし、相手を悩ませるなんて相当強いに違いない。なぜ囲碁部に勧誘されないのだろうか。かわいい。

** 「未来の話をしましょう」**

原作漫画32ページ『知っていてね』三コマ目。どうして毎回毎回告白をするのかを八千代くんに問われた君が世ちゃんは、だってだってあなたが事故に巻き込まれるかもしれないじゃない、と口にする。これが鹿野の話を聞いたあとだとすると、腑に落ちるものがある。

漫画との違いとして、キャラクター同士の繋がりを重要視した構成になっていたことが挙げられる。あの人がいたからこの人がこうなって、その人がそうなった。という風に連鎖が起こる。まるでぷよぷよテトリスだ。

小坂レイが赤いリボンの髪留めをつけられるシーンから「やっぱりお前はリボンが全然似合わないなぁ」というセリフに繋がったのだろうか。

あと世紀末さん見つけた。

奥華子の主題歌が…よかった……

家に帰り、『さよならバイバイ大好きだったよ』を読んだ。毎回読むと新しいことに気づく。例えば、きゃぴ子がチェリーコークというバンドでデビューしたこと、八千代くんが先生になっていたこと君が世ちゃんが小説家になったこと。今日はさっちゃんの息子のいわおくんが、主人公のクラスメイトだということに気がついた。また次に読むときもきっとなにかに気がつくだろう。映画ももう明日で終了してしまうが、きっとまた見ようと思う。眠れない夜が来た時に。映画の後、鹿野はどうしているのだろう。きっと幸せに生きているのだろう。幸せになるよ。

にゃん

#殺さない彼と死なない彼女 #殺カレ死カノ #映画 #感想