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大学時代その2(馬主が集う雀荘編)

「初めての雀荘メンバー(馬主が集う雀荘)」

(前回の続き)

麻雀やゲーム、何をやらせても異常に強い大学の友達「ジャミラ」が、雀荘でバイトを始めだした。

その雀荘にちょこちょこ通っていたある日、俺は急遽その雀荘で、ジャミラの代わりに1日だけバイトをする事になった。

1日だけとは言え、初めての雀荘メンバーである。

バイト当日、たくさん麻雀が打てる楽しみと、ちゃんと仕事できるかという不安の中、店に入った。

その時の店員は、店長Aさんだった。

店に入ると、店長が本走に入っていた。

俺はAさんに、ゲーム代の集め方や、飲み物の出し方など、一通り簡単に仕事を教わった。

このAさんは、俺が客で来ていた時よく見る店員だったが、ほとんど話した事はなかった。

なんか何を考えてるか分からないような感じの人で、他の人と話しているのもそこまで見た事がなく、黙々と麻雀を打っているイメージだった。

仕事を教える時も、必要最低限の事だけ話すという感じだった。

でも悪い感じの人ではなかったし、真面目な人なんだなぐらいに思っていた。

すると、新しいお客さんが来た時に、Aさんがノートに何やら記入していた。

それは、その日に誰が来たかを記入する名簿だった。

Aさん「この辺は俺がやるからやらなくていいよ。ゲーム代集めと、飲み物頼まれたらお願いね」

その後、マル(お客さん4人で麻雀を打つ)の状態が続き、店長にカウンターで休んでていいよと言われたので、なんとなくその名簿を眺めていた。

それにしてもこのAさん、めちゃくちゃ女の子みたいな字を書く。

(高校生の頃、こういう文字書く女子いたな)

そんな事を思いながら名簿を眺めていると、名前の隣に「」と書いてある人がいた。

俺「これはなんですか?」

Aさん「初めてこの店に来た新規のお客さんだよ」

なるほどと思いながらまた眺めていると、今度は名前の隣に、小さな文字で「馬主」と書いてある人がいた。

気になった俺は、Aさんに聞いた。

俺「この人、馬主なんですか?」

Aさん「そうだよ」

俺「馬主って雀荘に来るんですね」

Aさん「たまに来る事もあるんだ」

馬主について詳しく知らなかったが、めちゃくちゃお金持ちなイメージで、そんな人が雀荘に来ているというのが少し意外だった。

店長「1卓ラストです。優勝はBさんです。おめでとうございます」

このトップを取ったBさんこそ、名簿に書いてあった馬主の人だ。

俺はゲーム代を集めに行く際、馬主であるBさんを軽く観察した。

見た目は60歳すぎぐらいのおじいちゃんだったが、おしゃれなハットを被っていて、なんか時計も高級そうなものをつけてるし、いかにもリッチな感じを出していた。

※イメージです。

立ち番(卓に入らず、飲み物とかを出す)をしている時、なんとなくBさんの後ろで麻雀を見ていた。

するとこの男、かなり凄まじい打ち方をする。

ほとんどの手を暗刻系一色系の手に無理矢理持っていく。

満貫以下なんていらないよと言うような、いかにも馬主らしい(?)打ち筋だ。

(この雀荘凄い人が来るんだな。麻雀も豪快だし、多分一緒にやったらめちゃくちゃ強いんだろうな)

ゲーム代を集め、飲み物を出して、後ろで軽く麻雀を観察してを繰り返していると、あっという間に時間は過ぎていった。

お客さんが途切れずに来たのもあり、俺自身が麻雀を打つ事は一度もないまま、バイトが終わる時間になった。

麻雀は打ちたかったが、客で来てる訳じゃないし、まあ仕方ないなという感じだった。

そして帰り際、ふと名簿に目を通した時、事件は起こる。

なんと今日一日で、馬主が10人ぐらい来ているのだ。

いくらなんでも来すぎである。

名簿は全てAさんが書いたらしく、おびただしい量の「馬主」という強いワードと、かわいい文字のギャップが印象的だった。

そして、ゲームシート(卓に誰が入っているかを記入する表)と名簿を照らし合わせてみると、なんと馬主4人で囲んでいるとんでもない卓があった。

俺「あの卓で打ってる人って、全員馬主なんですか?」

Aさん「そういう事になるね」

俺「そんな事あるんですね」

Aさん「たまにこういう事もあるんだ」

俺「凄いですね」

Aさん「そうだね」

俺「馬に乗って来るんですか?」

Aさん「車だよ」

Aさんは疲れていたのか、さらに口数が少なくなっていたように感じた。

しかし、その卓の面子を見るとどうもおかしい。

たしかに馬主らしき人は2人いたが、もう一人はサラリーマンぽいし、もう一人に関してはどうみても学生にしか見えない。

(馬主って年齢制限とかないのか?馬主4人でテンゴで打っても一生終わらんぞ。馬でも賭けてるのか?)

結局、基本飲み物を出しただけでこの日は終わったが、雀荘の仕組みがある程度分かったし、色んな馬主も見れたし、結構いい経験になったなという気持ちだった。


その後、学校に行った時にジャミラにさっそくこの事を話した。

俺「あの雀荘ってめっちゃ馬主くるんだな」

ジャミラ「馬主なんていないでしょ」

俺「でも名簿に馬主って書いてある人10人ぐらいいたよ」

ジャミラ「?」

ピンときていなかったので、紙に書いて説明した。

ジャミラ「それ馬主じゃなくて、駐車場のね」

その雀荘は、有料駐車場を利用をした人に駐車料金をサービスするため、名前の横に「」とメモしていく決まりがあったようだ。

Aさんの文字の女子力が高すぎたのもあり、あろう事か、俺はその「」を「馬主」と読んでしまっていたのだ。

つまり、あのいかにも馬主らしきBさんは、馬主ではなく、そこら辺にいるただのちょっとオシャレなおじいちゃんだったのだ。

馬主だと思い込んでしまった俺は、高そうなもの身につけてるなと思ったし、やっぱり麻雀も豪快だなとか思っていた。

今にして思うと、身につけているものが高級なものかどうかなんて俺には分からないし、麻雀に関しては豪快ではなく、ただ単純に下手だったのである。

固定観念は恐ろしいなと思った。(普通気付く)

そしてもっと恐ろしいのがAさんである。

Aさんに関しては、俺ととんでもなく適当な会話をしていた事になる。

俺が馬主の話をすると、Aさんはさらっと会話を返していたが、よくよく考えるとAさんは馬主が何の事だか分かっていないだろう。

ジャミラ「たしかにあの人そういうとこあるからね。でもいい人だよ」


その後、そのお店に行った時にAさんに話しかけてみた。

俺「馬主なんか一人もいないじゃないですか」

Aさん「そりゃそうでしょ」

相変わらずよく分からない。多分この人俺の事嫌いだ。

でも一緒に働いてから少し心を開いてくれたのか、その後少しずつちゃんとした会話をしてくれるようになった。


「壁ドン」

俺らはみんなで遊んだり麻雀したりする時、一番学校から近い山形最強(前回の日記でも紹介した麻雀最弱の男)のアパートに集まる事が多かった。

山形最強は、二階建てのアパートの一階に住んでいた。

しかし、そのアパートは壁がめちゃくちゃ薄かった。

いつの日からか、少し騒ぐと隣の部屋の住人がこちらの部屋に向かって、壁ドンをしてくるようになった。

壁ドンと言っても、もちろん

これじゃなくて、

こっちです。

壁ドンされた時は、さすがに少し反省して騒がないようにしていた。

そんなある日、俺らはいつものように山形最強の部屋で麻雀をしていた。

その日も山形最強は負けが込み始め、だんだんと元気がなくなり、いつもの様に殺伐とした空気が流れ始めていた。

そんな中、夜中だというのにも関わらず、隣の部屋から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

最初の内は我慢していたのだが、一向に収まる気配がなく、むしろさらに騒がしくなってきたのだ。

これには、山形最強が黙っていなかった。

さすがにキレたっちゃ

麻雀で負けが込んでいたのも相まり、隣の部屋に渾身の壁ドンを繰り出したのだ。

すると、隣の部屋の人も反省したのか静かになった。

分かれば許したるっちゃ

しかし安心したのも束の間、また騒ぎ出したのだ。

山形最強は間髪入れずに、再度壁ドンを繰り出した。

すると今度は、あちらも壁ドンで応戦してきたのだ。

そこから不毛な壁ドン対決が始まった。

キレていた山形最強はもちろん退く気なし、全面戦争の構え。

しかし、数秒後に異変に気づく。

逆側の隣の部屋からも壁ドンされているのだ。

どうやら壁ドン対決がうるさかったのか、逆隣の住人もついにキレ出したのだ。(当然である)

山形最強はすぐさま逆側の壁まで走り、こっち側にも壁ドンを返した。

俺は悪くないっちゃ!

狂戦士と化した山形最強は、キレながら反復横跳びの要領で、両サイドの住人と戦っていた。

しかし、本当の事件はそこからだった。

あまりのうるささに、ついに上の階の部屋の住人もキレ出したのである。

上の階の部屋からの壁ドン、つまり床ドンである。

気がつくと山形最強の部屋は、全方向からの攻撃を受けていた。

しかしその時、反復横跳びをしながらも山形最強は次なる動きを見せていた。

すぐさま押入れから物干し竿を取り出し、天井を突いた。

上の部屋には、天井ドンで対抗したのだ。

あまりの事態に、残る俺らはただただ荒れ狂う山形最強を見守る事しか出来なくなっていた。

山形最強は、この三体一の状況にも怯む事なく、部屋中駆け回りながら全方向の敵と戦っていた。


敵に囲まれながらも、物干し竿一本で暴れ回るその姿は、「酔拳」のジャッキーチェンを彷彿とさせた。

そんな戦いの中、部屋のチャイムがなった。

山形最強が相手にしていた3人のうち、誰かがついに訪問してきたのだろうか。

しかしドアを開けると、いたのは警察だった。

ドンドンうるさすぎて誰かが警察を呼んだらしい。

事情を説明すると、警察は隣の部屋にも注意しておくといって出ていった。

それからは大きなトラブルになる事はなかったが、隣人が夜中に騒ぐ度に、山形最強はあの物干し竿で壁を突き、黙らせていた。

いつでも戦えるようにと、押入れから出され、枕元に置かれた物干し竿は、ロンギヌスの槍などと呼ばれ、ネタにされるようになった。

続く。

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