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帝都に咲く花5 〜立志編〜

以下の文章は戦争小説です。基本的に一般的な世界線とは異なり、
著者の趣味、妄想、思想も含まれますので諸々のデータは
史実のものとことなる場合がございます。
その点を理解したうえでお読みくだされば幸いです。


機密事項

 召集令状                        緋月みさと
  
  本状の内容を部外者へ漏洩する事を禁ず。
  貴女の後衛陸軍士官学校への召集を命ずる。
  本状が到着した日時より72時間後に迎えの車両が向かうので
  それまでに荷物を用意し、本状と同時に送付した書類に必要事項を
  記入の上、本状が到着した6時間後に到着する将校鞄へ
  必要書類及びその他日用品を収納すること。なお娯楽用品は
  認められない。
  本召集命令は誠に遺憾ながら貴女の意思による拒否はできない。

 なお本状は内容把握次第速やかに破棄すること。




なぜ私だけなのだろうか。
みさとは荷造りしながら考える。
もちろん、他の人間がこのような命令を受け取っていないのは
見ればわかるし、なにより遠藤と私は「部外者」ではないだろう。




彼女は母よりも母であったし父よりも父であった。
遠藤と私の関係は夏前の一度目の召集令状のときから
格段に良くなった。今では遠藤と私は心置きなく会話できる、
とまではいかなくとも私が遠藤に心配されていることはわかったし、
それなりの情が私に向けて存在していることも理解した。

だから、召集令状が来た日には真っ先に遠藤に相談した。
遠藤は私にとって「部外者」ではない、大切な存在だ。
遠藤は狼狽して、父母弟に連絡すると言い始めたが
私にとって彼らは「部外者」だった。連絡する必要はない。
それに父と弟は軍人だ。父は天皇陛下直属の近衛歩兵第7連隊附当
だし、弟は最近出世して、陸軍憲兵少佐になったそうだ。
知ろうと思えばいくらでも知れるだろう。
みさとはそうも思った。
遠藤は準備を始めるよう私に言った。
このままだとあなたはこの家から一生出ることができない。
その事実が不憫で不憫でしようがない、と。
その瞳は潤んでいたが、私は何も言えなかった。




みさとは考える。
洋服はいらないだろう。軍服があるから。
緋月みさとは長男であったときも長女であったときも
軍属扱いで徴兵が免除されていた。
はんかちーふは生活必需品に含まれるだろうか?
徴兵される事自体が特段嫌という訳では無いが
己が知らない理由で召集されることについて違和感と
不快感を感じるのだ。
到着した将校鞄にちょこれーとを忍ばせる。
久方ぶりに感情を制御できていない自分に気づく。
顔が塗りつぶされた家族写真。遠藤も写っている。
これは、、、、、、、、、、、。
そんな自分に気づき更に落ち込む。
一応持っていこう。




将校鞄は案外小さく、すぐに用意が整った。
おそらく召集令状から読み取れる迎えが来るまでの一日は
最後の日常を味わえということだろう。
私は明日に備えて早めに寝ることにした。







使用人室からはドアがきしむような音が聞こえてきた。

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