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山水郷チャンネル #02 ゲスト:坂本大祐さん(オフィスキャンプ東吉野) [後編]

山水郷チャンネル第2回目は、坂本大祐さん後編です。

Profile: 坂本大祐 デザイナー/クリエイティブディレクター
人口1,700人の東吉野村に移住して14年目。2015年 国、県、村との合同事業、シェアとコワーキングの施設「オフィスキャンプ東吉野」を企画・建築デザイン・運営を受託。開業後、同施設で出会った利用者仲間と山村のデザイン事務所「合同会社オフィスキャンプ」を設立。奈良県をはじめ、日本全国のデザインや企画をひき受けている。また2018年、同じようなローカルエリアのコワーキング運営者と共に「一般社団法人ローカルコワークアソシエーション」を設立、全国のローカルでコワーキング施設の開業をサポートしている。

後編はオフィスキャンプの仕事に加え、坂本さんの仕事観について更に聞いていきます。

オフィスキャンプの仕事

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「ローカルデザインの流儀を学ぶ」 - 奥大和クリエイティブスクールという、奈良県と一緒にやった事業。
全6回の連続講座で、30人限定で生徒さんを募集して、月1の講座をやる。県と一緒に、特に奈良県奥大和地域のクリエイティブをよりよくしていこうというコンセプトで講師の選定など、企画とクリエイティブ全般を我々でやらせていただきました。

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講師のメンバー。右から中川政七商店の中川政七氏、ライゾマティクスの齋藤精一氏、iRIKAWA Style & Holdingsの入川秀人氏、坂本大祐氏、STUDIO SHIROTANIの城谷耕生氏、山形アカオニの小板橋基希氏。

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これはGREEN PAPERっていう冊子なんですけど、我々が住んでるエリアも含めて、ユネスコのエコパークに認定されてるんです。それを広く啓蒙するための冊子を、そのエリアにいる人たちで作ってもらいたいというオーダーが環境省からきたんです。それで白羽の矢が立った。ライターもエディターも、今は弊社の中にいまして、編集から企画から全部、奈良のメンバーでほぼやってます。

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奥大和ビール。村の隣に宇陀市というちょっと大きなまちがありまして、そこでクラフトビールを始めた方から、名前とブランドのロゴとパッケージ、フライヤー、最終的には店舗のデザインを一貫して全部引き受けた案件です。
もともと建築の学校出身なもんですから、店舗のデザインは自分がやってます。ロゴは、弊社の別の者が担当してます。
車で20分ぐらいのところにこのお店があるので、我々もすごく重宝していて、生ビールをタップから売ってもらえるっていうのがめちゃくちゃ嬉しい。ここはもともと酒屋やったっていう、なかなか面白いストーリーがあって。
奥にまず、ブリュワリーってビールを作る所があって、手前にタップルームっていうビールを飲める所があって、今ちょうどその横をゲストハウスにしようとして改築のプランを練っているところで、近々それがオープンする流れです。

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坂本さんが手がけた店舗デザイン。

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最後は純粋に建築のお仕事で、新大阪にあるマンションの1室を全てリノベーションさしてもらった案件です。
クライアントがオフィスキャンプに来てくれた人なんですよ。「デザインもやってるんですよ」みたいな話になるじゃないですか。建物を見てもらえるのは大きいです。

地域を代表するデザイナーになっていく

営業は特別やっていなくて、純粋に必要な母数に対してデザイナーの数が少ないんだと思うんです。
大阪っていうエリアに対してのデザイナーの数と、奈良のこんな山奥にいてるデザイナーの数っていうのは、全然比率が変わるじゃないですか。競合他社がほぼいないわけです。
「東吉野いうたらオフィスキャンプ」って形になる。それが徐々に広くなってきて、「奈良の南のほうやったら、あいつおんな」みたいなぐらいに思ってもらってる。
大阪にいてた時にはそうなってないわけで、そこがやっぱり面白いですね。母数が少ない所に行くことで、同じことやってるんですけど結果的に目立ちますよね、他にやってる人がいないんで。
デザインにかけられる時間が長くなるみたいな話はよく聞くんです。都市でやってると、回していかないといけないランニングのコストがどうしても膨らみますよね。それが地方に行くことで、ガガッと下がるんです。なので回さないといけない仕事の量も、それに比して下げられるので、その下げた分だけ1個当たりの仕事に対して長く取り組めるっていうのはメリット。
じっくり時間かけてやれたらなと思ってるクリエイティブの方って、結構多いと思うんです。それがしやすい。それをしたことで返ってくることもあるというか、1つの仕事から派生していろんな仕事につながっていく率が地方のほうが高いような気がしていて。
「これ、誰やったの?」みたいな話になりやすいですし、仕事ができて、事業が良くなってまた頼んでもらうという好循環が、地方のほうが生まれやすいような気はしています。

行政の言語がわかるデザイナー

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good cycle ikomaという、生駒市のプロモーションのためのウェブサイト。約1年がかりでやらせていただいた仕事です。
これ以前にあったプロモーションサイトを今の時代に即した形にリニューアルさせたいと。行政の言語も分かるデザイナーと一緒にやりたいっていうのがあったそうです。われわれが行政と連携した事業を既にやっていた状況でしたので、ご依頼を受けたっていう流れです。
自分は奈良に来るまで、一切行政の仕事はやったことなくて、オフィスキャンプで初めて受けたんですけど、まず予算が先にあるっていう状況って特殊だと思うんです。使える予算がまず先に決まっていて、何をするかもある程度見えていて、その先をやっていくみたいな話じゃないですか。民間のビジネスセクターの仕事のやり方と正反対というか。なので最初とまどったんです。
でもある意味、チャレンジングなことが行政のほうがしやすかったりもするんです。そこにいてる人たちがよりよくなることを行政としては望んでいるわけで、そのためのデザインになっているんだったら、例えば「めちゃくちゃ広く届かなくても、これぐらいのコアの人たちにきっちり届けばいい」みたいな話もできますし。
それがご納得いただけて、行政の中では変わった、スタイリッシュなサイトを作成できたんです。行政の方との対話とお金の使い方の特殊さが結果に結び付いていると自分は思っていて、面白いポイントだと思います。
地方もデザインが必要だって気付いてる方々は、もちろん行政も含めて、結構いらっしゃるんです。その(発注の)多くが、東京とか、大阪とか、都市圏に流れていたんですけど、大前提として潜在的な顧客層っていうのは実は結構あるんです。それを近い(場所にいる)我々とやりましょうって変えてさえいけたら、取れる仕事はたくさんあって、それを望んでるクライアントも多いんです。我々の中でもこなせる仕事量って決まってくるので、(他のデザイナーも)まだまだいけると思いますけどね。

人以外の理の中にあるものが、身の回りにたくさんある

こっちに来てもう15年ですけど、まず一番思うのが、影響を受けるものが人由来のものじゃなくなってきてるなっていうのは明確に感じるんですね。都市を歩いていると、目に入るもののほとんどが誰かが考えたものなんです。木一つ取っても誰かが考えて植えたもので、人の脳みその中を歩いてるみたいなもんやと。全てにおいて誰かがそれを意図してつくってるので。
でも、ことこういう地方になると、誰が意図したかも分からないものがたくさんある。川なんてそれの代表例ですけど、そこら辺に生えてる雑草が咲いてるみたいなこともそうですし、人以外の理の中にあるものが身の回りにたくさんあると、影響を受けるものが全然変わってくる。はっと目に留まるものが人のつくったものじゃないっていうところが、自分の強みになってるんじゃないかなと思っていて。
だからなるべく、時間の経過に耐え得るものにしたいなという思いは底流にあって。長い時間が経過してるものをたくさん見るので、瞬間的に過ぎるよりは、時間がたってもあまり変化のないものにできたらいいなと、ずっと思いながらやってるんです。クライアントさんともなるべく長いお付き合いができるといいなと思うので、思ってることはなるべくその場で、お伝えするようにしていて、それが嫌なことでもやっぱり言ったほうがいいなと思ってるんです。それが自分の価値だと思うので。

都市と農村っていう二極があるからいい

社会ということで言うと、自然(しぜん)であることとか、自然(じねん)であることみたいなのが、恐らく次の社会のテーマになるんじゃないかと思っていて。
自然(しぜん)っていうのは「ある」、環境も含んだもので、自然(じねん)っていうのは「あるようにある」みたいなニュアンスで捉えてるんですけど。そこに「ある」ものが「あるようにある」っていうスタイル、スタンスが、自分は大事だと思っていて。そこが今回のコロナの件で、結構浮き彫りになったんじゃないかなと。
東京で、満員電車で通勤しなくてよくなった人が、もう一度満員電車に戻ろうとするのかどうかっていうこともそうなんですけど、その満員電車っていう環境が自然だったんですか?どうですか?ていうところだと思うんです。今、コロナでいわれてる三密っていう状況は、要はコロナ関係なく、人があんまり気持ちいいと思える状況じゃないはずだなって自分は思ってて。なので、そうじゃないところになるべく長くいれることにしようよっていうことだと。
自然に考えて「本来だったらこうですよね」っていうものを取り戻していくのが、これからコロナ後の時代の大きなテーマになるんじゃないかと思っていて、それが井上さんのこの本(「日本列島回復論」)からも読み解ける。
例えば、ポスト農村のことが書かれてる。「失われていく日本の魅力」っていう副題があるんですけど。ここで柳田國男さんの本の一節を抜粋されてるんですけど、都市と農村がそもそも二項対立の状況じゃなくて。今の話で行くと、農村だけが素晴らしくて都市は駄目だみたいな話になりやすい文脈だと思うんですけど、実は全然そんなことなくて、都市と農村っていう二極があるからいいんだっていうことを、もう既に柳田國男さんがこの時代に書いてるってことに、驚きを覚えたんです。
自分も都市が悪いとかっていうふうには全然思ってない。行ったら、すごい面白いですから。でも自分には農村もあるっていうか、山間部の自分の村もあるっていうのは、すげーラッキーやなってずっと思ってて。どっちも使えるじゃないですか、自分の場合は。
農村の言語も自分は分かるし、都市の言語も全然分かるんです、それまでそこにいてたから。だから、結局どっちに住んでてもいい状況の中で、自分の場合は農村が合ってるから農村を選んでるんです。なので、たくさんの人たちがそういう状況の中でそれでも都市を選ぶんだったら、選んでいい。それも一つ、いい方法だと思うし。これから都市と農村がお互いに補完関係にあるような状況をうまく生み出せないかなと思っていて、それを井上さんの本でも書いてもらってる。
今はバランスが悪いっていうことが課題で、都市っていうものに偏り過ぎている状況が、あんまり健康じゃない。農村とか山間地域の価値を50・50ぐらいに戻してこれると、日本ってすごいすてきな国に、よりもっとなるんじゃないかなと思ってます。
若い人たちが地方を目指しつつある傾向っていうのは、今でも続いてると思ってるんです。なので、少し先に地方に行った者としては、それをうまくサポートできたりとか、地方に暮らす流儀みたいなもんをきっちりお伝えできるような立ち位置になれたらいいなとは思ってます。

後編では、地方でのクリエイティブの話に留まらず、移住やこれからの社会に望むこと、生き方についての話などが伺えました。
動画では、NOTEには書ききれなかった内容や、視聴者から届いた質問にも答えています。
ぜひYouTubeでご覧ください。


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