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初めての一人暮らしと、綺麗なお隣のお姉さんと私。

正確には、初めて借りた部屋は高円寺の悪夢のルームシェアになるんですが…。

初めて“ひとりで”借りた部屋は、墨田区のワンルームでした。

築20年くらいだったかなあ。一番上の階に大家さんが住んでいて、その一つ下の階だったので実質最上階ですよ、と不動産屋さんには言われた。家賃は確か75,000円くらい。オートロック付き・駅徒歩1分の角部屋。最初は電車の音が気になって眠れなかったけど、すぐに慣れた。

ベランダに出るとスカイツリーが見えた。高円寺はとにかく悪い思い出のせいもあり、何もかもが性に合わない街だった(ことに(私の中で)なってる)んだけど、墨田区は下町感も含め結構気に入って、休みの日は歩いて浅草やスカイツリーに行った。どちらも徒歩30分くらいの道のりはほとんど静かな住宅街で、特に浅草は、近づくにつれてだんだん観光地っぽくなっていき、徐々に人が増えていく感じも好きだった。

墨田区に引っ越したその日、お隣に住むお姉さんがちょうど外に出るところに出くわした。ゴミの出し方やオーナーさんのことを笑顔で教えてくれた。とても綺麗で感じのいいお姉さんだった。

ルームシェアのストレスから解放されたことで、一人暮らしは快適そのものだったんだけどひとつだけ欠点があった。
その部屋は、壁がめちゃくちゃ薄かった。お隣さんに来客があった時の会話とか、食器が触れる音まで聞こえてきて、つーことはこっちの音もお隣さんに聞こえてるってことで、なかなか気まずく感じていた。
お隣さんのところにはよく彼氏さんが来ていた(声で分かるんです…)。あんな綺麗で素敵なお姉さんとお付き合いされているのはどんな方なんだろう!?と思っていたらある日エレベーターで乗り合わせた。当たり前だろって感じなんだけど見た目は普通の人で、さすがにそれ以上の情報は得られなかった。でもあのお姉さんがお付き合いされるくらいなんだからいい人なんだろうな、と勝手に納得していた。
壁が薄いことに関して気まずい思いはあるものの、幸いお隣さんは常識のある方だったので、私が困ることは特になかった。

私は一人暮らしを謳歌し、貯金なんて少しもせず、仕事終わりにはよく会社の人と飲んだ。一人暮らしは快適だけど、やっぱり夜を一人で過ごすというのは寂しかったからなあ。でも好きなように飲み歩くというのは一人暮らしの醍醐味だと思うのでやっといてよかったと思う。


ある日、私はいつものように飲み会で酔っ払った。タクシーで自宅へ帰ってきてエントランスのオートロックを開けようとしたところで、コートのポケットに家の鍵が入っていないことに気付いた。

それは2月だったということもあり、寒さと(やっちまった)感で酔いが一気に冷めた。
一緒に飲んでいた後輩に電話すると、「あっ、ようこさんが酔っ払って落とした時に拾って自分のポケットに入れてそのままでした…」とのこと。その時既に終電近い時間。
「僕もう電車乗るんで、別の後輩に持っていかせますね!」
ということで、私が悪いのに、一応同じ路線沿いに住んでいる別の後輩(と言っても方向は真逆…)がわざわざ私の最寄り駅まで鍵を持ってきてくれることになった。

私は家のエントランスの前で震えながら鍵の到着を待っていた。途中で気持ち悪くなってきて、持っていたビニール袋に吐いた。
家の前で吐いている女いてすみません…と心の中で懺悔しながら、でももう夜遅いし頼む誰も通らないで…と思っていたらエレベーターから綺麗なお姉さんがゴミ出しに現れた。すごく怪訝な顔をして私のことを見ながら通り過ぎ、ゴミを出し、また戻っていった。お隣さんにとんでもない醜態を見られた私は、穴があったら入りたい、いや、穴を掘りたい、と思った。

すると、お姉さんがまたエレベーターから現れた。手にはペットボトルの水。そして自分のゲロを抱えて震えている私に話しかけてくれたのだった。

「大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です…。ちょっと鍵忘れてきちゃって鍵が来るの待ってるだけなんで…」
「寒いでしょ!?おいで!」

なんと、お姉さんは私を自分のお部屋に招き入れてくれたのでした…。ゲロ抱えてるし「いいいいいいです」と断ったけど、引っ張られるようにして私はマンションの中に入れてもらった。

お姉さんの部屋は、私の部屋と同じ間取りなのになんかものすごくおしゃれでいい匂いだった。同じ間取りでこうも部屋の雰囲気が変わるのか…と軽くショックを受けた。そして言うまでもないがとっても暖かかった。

お姉さんは白湯をくれた。もうすぐ引っ越して彼氏さんと同棲する(結婚するんだったかも)と教えてくれた。こんないい方がもうお隣さんじゃなくなっちゃうんだ…と私は寂しくなった。そんな他愛無い話をさせていただいていると私の携帯が鳴った。後輩が最寄り駅に着いたと連絡をくれたので、お姉さんにお礼を言って飛び出して、私は後輩から鍵を受け取った。尚後輩は帰りの電車がなくなって漫喫に泊まったらしい。一番かわいそう。

外で凍えていた時間が長かったので、お隣さんのお部屋での滞在時間はめちゃくちゃ短かった。すごく申し訳なかったし恐縮したけど、とても優しく暖かい、いや温かい時間だった。つか一夜にしてどんだけの人間に迷惑かけてんねん私。こわ。お酒こわ。自分を管理できない人間(私)こわ。

あのお隣の綺麗なお姉さんの優しさとこのエピソードは一生忘れないと思うし、自分がいかにクズだったかということも、同時に一生忘れてはいけないなと思う、一人暮らしの頃の話。

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