【連載】ヘッジファンド解剖学:その起源から未来まで(3/10)
ヘッジファンドの復活とジュリアン・ロバートソン
1980年代のヘッジファンド復活の始まり
1980年代には、金融自由化とグローバリゼーションが進展し、ヘッジファンド業界もその波に乗って大きな成長を遂げました。1980年代の初めには、ヘッジファンドの数は100以上にまで増加しました。
金融自由化の波は、ヘッジファンドにとって重大な転換点であり、好機をもたらしました。金融規制の緩和により、これまで行うことが難しかったレバレッジやショートセリングといった取引が可能になりました。これにより、ヘッジファンドは従来以上にリスクを取ることができ、高いリターンを追求することが可能となったのです。
また、グローバリゼーションが進展した時期でもありました。これにより、ヘッジファンドは世界中の金融市場で取引を行うことが可能となったのです。異なる国や地域の金融市場に投資することで、リスクを分散し、さらなるリターンを追求することが出来るようになりました。
これらの要素が合わさり、1980年代はヘッジファンドの黄金期とも言える時期となりました。この時期に設立されたヘッジファンドの中には、現在でも金融業界に大きな影響を与え続けているものも存在します。ヘッジファンドが復活した1980年代は、その後の金融業界に大きな影響を与え、その役割と存在感を一層高めました。
ジュリアン・ロバートソンと彼の役割
ジュリアン・ロバートソンはヘッジファンドの黄金時代を牽引した一人です。彼のヘッジファンド、タイガー・マネジメントは1980年代から1990年代にかけてその名を世界に轟かせました。
彼の投資哲学は、「資本を最も需要のあるところへ動かす」というシンプルなものでしたが、その投資判断の正確さと適時性は業界でも一目置かれる存在でした。彼はミクロとマクロの両方の視点から投資機会を捉え、市場の誤った価格設定を見つけ出し、それに賭けることで巨額のリターンを手に入れました。
ジュリアン・ロバートソンが主導したヘッジファンドの運用スタイルは「マクロヘッジファンド」であり、これは金融市場全体の動向、世界経済の大きな流れを読み解き、通貨や債券、株式、コモディティなどの幅広いアセットクラスにまたがって投資する戦略を指します。彼のスタイルは後のヘッジファンド運用に大きな影響を与え、多くのファンドマネージャーが彼のスタイルを模倣するようになりました。
しかし、そんな彼の成功は永遠ではありませんでした。タイガー・マネジメントは2000年に閉鎖を余儀なくされています。その閉鎖の理由は様々ですが、その一つには彼の投資哲学が適用できなかった新興国市場のリスクがあります。しかし、それでも彼の影響は色あせることなく、彼の元で学んだ投資家たちは「タイガーカブ」(子トラ)と呼ばれ、今日でも金融市場で活躍しています。
ロバートソンの活躍と彼が生んだ「マクロヘッジファンド」は、ヘッジファンドの歴史において大きな足跡を残しています。それはヘッジファンドが世界経済の動きを読み解き、幅広い投資機会に資本を配分するという新たな投資スタイルを生み出した象徴であり、今日のヘッジファンド業界にもその影響を色濃く残しています。
新たなヘッジファンド戦略の発展
ジュリアン・ロバートソンが導入したマクロヘッジファンドの戦略は、1980年代以降のヘッジファンドの戦略の発展に大きな影響を与えました。これにより、ヘッジファンドは単に株式や債券を売買するだけでなく、国際経済の動向や金融政策、通貨レートなどマクロ的な要素を利用した投資が可能になりました。
この時代、さらに注目すべきヘッジファンド戦略の発展としては、アービトラージ戦略の採用が挙げられます。アービトラージ戦略は、金融市場の不効率性を利用した取引で、同一の商品や密接に関連した商品が異なる市場で異なる価格で取引されているときに、低い価格で購入し、高い価格で同時に売ることで利益を得る戦略です。メリルリンチやソロモン・ブラザーズなどの大手投資銀行がこの手法を導入し、その後、多くのヘッジファンドが追随しました。
また、1980年代には、クオンツ(定量的)ヘッジファンドが登場します。クオンツは複雑な数学モデルや統計的な手法を利用して市場を分析し、それに基づいて投資を行います。その起源はシカゴ大学の経済学者、フィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズによるオプション価格理論に遡ります。彼らの研究は、リスクを定量化し、それに基づいて最適な投資判断を下すという金融工学の基礎を築きました。
これらの新しい戦略の発展は、ヘッジファンドが金融市場の様々な不効率性を利用してリターンを追求する手段を大きく広げることになりました。これにより、ヘッジファンドは単なる投資ファンドから金融イノベーションの先駆者へと変貌し、金融業界全体に新たな動向を引き起こす存在へと成長しました。
当社、GCIアセット・マネジメントも、この流れの一端にあると言えます。2000年の創業以降、一貫して日本におけるヘッジファンド運用を手掛けてきた当社におきましても、オプション理論を活用したシステマティック・マクロ戦略が存在しており、海外のアワードでも高い評価をいただいております。全天候型のヘッジファンド戦略として、公募投資信託の投資対象ファンドの戦略としても活用しています。
これらの新しい戦略の発展は、ヘッジファンドが金融市場の様々な不効率性を利用してリターンを追求する手段を大きく広げることになりました。これにより、ヘッジファンドは単なる投資ファンドから金融イノベーションの先駆者へと変貌し、金融業界全体に新たな動向を引き起こす存在へと成長しました。