短編小説『タイムマシン陰謀論』

いつとも知れぬ未来の日本。
極めて狭い視野と不完全な形でしか伝わらなかったらしいニュースと完璧なる論理性が合体した結果、世にも珍妙なる目標を掲げたテロ組織が爆誕してしまい……?
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」「note」に同じモノを投稿しています。


「第1分隊、救助対象の居る階に到達しました」
「了解。なるべく犯人達も殺すな。最低でも、犯人達の動機を推測出来る電子データは持ち帰れ」
 日本が長い停滞の時代を抜け、経済的にも復興してから一世代以上が過ぎた。
 あの停滞の時代には「即『金になる』『実用性が有る』『国威発揚に直結する』もの以外は学術研究に予算が付かない」という状況だったらしいが、今では、そんな事は無くなっていた。
 例えば理系の研究であれば、何十年後に役に立つのかも判らない基礎研究も、ちゃんと行なわれるようになっていた。
 しかし、日本が、経済のみならず、学術分野においても復興してから、不可解なテロが続くようになっていた。

「全フロア制圧完了。生き残っているテロリスト達は全て投降しました。しかし……」
「どうした?」
「医療班をすぐに寄越して下さい。拉致されていた学者達が……」
「また、今回もマズい事になってるのか?」
「自白剤と思われる薬剤のオーバードーズです」
 残念ながら、この科学技術が発達した時代になっても、専門家以外には、あまり知られていない事は山程有る。
 例えば自白剤の危険性だ。
 今の時代になっても、自白剤は実用化されていない。つまり、自白剤を使おうが使うまいが、尋問を行なう者には「自白した内容が事実なのか? それとも、?」を見極めるノウハウが必要になる。
 どうやら、テロリスト達は、そんな事を知らなかったようだ。
 そして、テロリスト達は、自白剤に関する同じ位重要な知識が無かったようだった。
 それは……「適量がどれ位なのか?」だった。

「ようやく、テロリスト達の目的が推測出来ました」
 朗報だったが、会議室に集まった捜査官達や武装部隊の指揮官達は誰1人喜んでいなかった。
 テロリスト達に拉致された学者は、またしても、廃人となってしまったのだ。テロリスト達の無知と救助が遅れた事の合わせ技で。
「まず、テロリスト達は、事前に配布した資料の1−1に記載した条件でのみ浮び上がるタトゥーを体のどこかに入れています。それで味方かどうかを判別しているようです」
 そう言ってスクリーンに映し出されたのは……。
「お……おい……こ……これ……どう言う意味だ?」
 男性のものらしき腕に浮かび上がっている文字列……それは……『』。
「テロリスト達が誘拐した学者達に関する共通点も、ようやく見えました。ほぼ、全員が、過去にあるモノに関する論文を書いた事が有りました」
「何だ?」
です」
「いや、まだ、この会議の予定時間は十分の一も過ぎて……」
「すいません、そう言う意味では有りません。全員が基礎研究系の理論物理学者で時間に関する研究を行なった事が有ります」
「すまん……話が全く見えんのだが……」
「たとえば、こちらの学者は……一般向けの科学啓蒙書で、タイムマシンが、どの程度、実現困難かを示した事が有ります」
「へっ?」
「続いて、こちらの学者は、ネット配信で『過去に情報を送る事も理論上不可能では無いが、それには非現実的な量のエネルギーが必要になるだろう』と発言した事が有りました」
「だから何を言ってるんだ?」
「それが……テロリスト達は『』と信じているようなのです」
「はあ?」
「そして、過去への干渉は事実上不可能だと発言したり、そのような内容の論文を書いた学者達は……未来から二〇二X年に干渉した何者かの手先であり、それらの発言や論文は、その未来からの干渉の事実を隠蔽する為の欺瞞工作だと思っているようなのです」
 全員が溜息をついた。
「……虚偽自白では無さそうだな。テロリスト達の動機が、そんな馬鹿馬鹿しいモノだと推理をした者は、誰も居なかった以上は」
「そう言えば、その年、何が……ああ、結構、色々と有るな」
「まぁ、近代以降、時代の変わり目でなかった時代の方が稀だしな」
「で、テロリストどもは、未来人達が、どの選挙に干渉したと思ってるんだ?」
「違います」
「では、国会の決議か?」
「違います」
「では、地方議会の……」
「違います」
「警察か? 自衛隊か? 官公庁か? マスコミか? それとも、まさか、インターネット上の炎上でも引き起こしたと思ってるのか?」
「最後のです」
「どんな炎上を引き起こして、どう世の中を変えたと思ってるんだ?」
「それが、どうも、良く判らないのですが……何故か、この件だけ、前後の時代の日本で起きた似たようなケースと明らかに違うパターンの事が起きた……そうテロリストは推理したようです」
「何だ、こりゃ?」
 インターネット上の情報は……数十年単位で見れば、案外、簡単に消えてしまうらしく、スクリーンに表示されたのは、当時の新聞の1ページだった。
 それは、当時の有名企業の主力商品とタイアップしたあるポップソングのミュージックビデオに関するニュースだった。
 そのミュージックビデオは動画サイトにUPされて二四時間が経過しない内に炎上して削除された……

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