ベトナム語の歴史本『越南史略』
現在、ベトナム語として一般的に周知されているアルファベット化文字によるベトナム語が出来てきたのは19世紀中から後半頃です。そう遠い昔ではありませんが、それ以前はどうだったのかというと、官吏登龍門の科挙試験の為の儒語(=漢語)、或いは喃字(チュ・ノム)というベトナム独自の漢語風の文字がありました。けれど、両方とも民間に広く普及していたわけではありません。
フランスに植民地化される前のベトナムは『ベトナム王国』。当時は阮
(グエン)王朝です。フランス・スペイン連合艦隊のダナン砲撃開始が1858年。ここから侵略を受け続け、最終的にフエの朝廷政府はフランスの保護権を受け入れ、仏領インドシナ連邦と呼ばれるフランスの極東植民地の重要拠点となって行きました。
アルファベット化文字による近代ベトナム初めての歴史書が、ベトナム人歴史家の陳仲淦(チャン・チョン・キム)氏による『越南史略』です。
初版が印刷されたのは1920年代ですので、かれこれもう100年前の本です(!)。けれども、その内容の濃さ、研究に向き合う誠実さ、史実への真摯な姿勢、歴史は「民族の共通財産」だとの気持ちを崩そうとしない意志の強さが、100年後に生きる私達へもビシビシと伝わって来ます。
陳仲淦(チャン・チョン・キム)氏『越南史略(Việt Nam Sử Lược)』の序文をご紹介します。|何祐子|note
私自身、今迄様々なベトナム史本を読んで来たのですが、現在までに発刊されているベトナム史の本は、どうも殆どがこの『越南史略』がベースになっているように思います。「歴史は民族共通の財産」-『越南史略』が改善・改良されて来て現在に至る・・・当然それがベストでして、それならば編者のチャン・チョン・キム氏も本望でしょう。
私自身がそうでしたが、一般の日本人は元より、戦後、特に近年に於いてベトナムビジネスに関わる人、或いはベトナムで暮らす人、ベトナムで結婚してベトナム人配偶者を持つ人でも、結構ベトナム史を能く知る人は少ないと思います。これは日本にとっては実に良くない現象だと個人的に思っています。もしベトナムに暮らす、ベトナムで働く、ベトナム人と働くという機会のある方々には、簡単なベトナム通史でも知っていれば、きっと役に立つ日が必ず来る筈です。
ベトナム近代史界に於ける金字塔、大ベストセラー『越南史略』の存在をご紹介しましたが、何といっても原本を読んで頂くのが一番です。しかし、それはちょっと難しい、ベトナム語読めないよ・・・、という方が圧倒的に多いのが今の日本の実情だと思います。
特にこの20年間ぐらいは、ベトナム人の日本語習得ブームで日本語上手なベトナム人が急増した為に、日本人学生・日本人ビジネスマンがベトナム語を必死になって勉強する機会が失われつつあります。それにやはりビジネスの場では英語が必須になりますので、若い方ですと、英語と第三言語の間で板挟みになって、結局やはり英語補強に向うことになり、近年日本人のベトナム語話者層が増えて来ないのは、実に残念な傾向です。
残念というのは何故かと言うと、元々儒教文化圏だったベトナムですから、文字はアルファベット化されても、言語そのものは私達日本人に共通する点が多く、文書などは日越語対訳表などを用いれば、意外に結構解読することが出来ます。要するに日本人は、西洋人がベトナム語を勉強するより遥に有利なポジションに立っていると言えると思います。ただ、日本人にとって厄介なのは、6声変化に複雑な声調記号の組み合わせによる、あの独特な発音です。ベトナム人のネイティブの先生からいきなり発音を教わると、日本人向けの発音法則など当然ながら教えてもらえるものではないので、あの発音レッスンで苦しい日々が続き、最終的にはギブアップしてしまう日本人が多いように思います。いつか、日本人に合う発音規則による発音練習法でも纏めて本にでもしてみたいな、と色々考えてはみますが、やはり難しいです。
陳仲淦(チャン・チョン・キム)氏『越南史略(Việt Nam Sử Lược)』の序文をご紹介します。|何祐子|note