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『天空の結婚式』で感じたこと -今の現実が、いつか現実でなくなること-

ガチの映画マニアには程遠いのですが、月に1本は映画を観ます。お金もそれほどかからないし、2時間くらいという時間もちょうどいい。一人でする趣味としてはいいなあと思います。


日常生活の中で、一人で何かに集中する時間って実は全然ないなと思うのです。
スマホを触りながら、テレビや動画を見ながら、音楽やラジオを聴きながら。ながら作業をすることが多い中で、2時間たっぷり一つのストーリーを集中して追っていく時間って貴重です。


ゲイアプリやゲイサイトを見ていると、折々に公開されるLGBT関連の映画情報が入ってくるので、気になるものは大抵チェックしています。


そんな中、今回観た映画が『天空の結婚式』。
ゲイカップルが結婚式を挙げる、という書いてしまえば単純なストーリーの映画なのですが、湿りっ気がなく面白く観れました。


ゲイあるあるな人物と台詞たち

ゲイカップルの二人がお互いの親に理解をしてもらおうとするのはよくあるストーリーではあるのですが、その過程で現れる人物は実に現実味のある人柄なのです。

日頃は人権派を気取っているのに、いざ自分の息子のこととなると拒否感を露わにする父親
息子がゲイっぽいことに気付きながらも、実際に婚約者を連れてきたら不満たらたらだったのに、途中から急に手のひらを返して結婚式を進めていく様は、本当は何を考えているの?な母親
昔から好きだった男がゲイであることを受け入れられず、気の迷いでしょ?あたしの方が絶対イイはず!それでも振り向かないのなら結婚式を台無しにしてやるわ!とでも言いたそうな元彼女

ノンフィクションだったなら、界隈で炎上するんだろうなという台詞が満載です。


一方で、こんな風に背中を押されたら感涙ものだなと思う台詞を言ってくれる牧師さんなどもいて、良くも悪くもゲイの胸にストレートに刺さる言葉のオンパレードです。


嘘っぽさから目線が変わったラストシーン

紆余曲折ありながら結婚式の準備は進んでいき、式の当日。
ラストは、前半で父親が嫌いと言っていたミュージカルのような大団円で終わるのですが、その結婚式のシーンでは今までのストーリーが嘘だったように皆んなゲイカップルを祝福しているのです。


それを観て最初は

嘘っぽい!父親はあんなに受け入れられなかったのになんで今は笑顔なの?
母親は絶対婚約者のことをイイ人だと思っていない!単に元彼女との女の争いが嫌なだけ!
元彼女みたいな自分勝手に過去を引きずる人いるよな!
カップルのもう一方の母親が式に来た理由が全然描かれてないんですけど!
そもそもあんな田舎で父親以外の人が嫌悪感を示さずに手伝ってくれちゃってるのが都合良すぎる!

などと色々雑だなと思っていたのですが、次の瞬間に思い浮かんだのは

実はこれ、カップルの周りの皆んなが、わざと嫌なやつを演じていただけなんじゃないか

というものでした。


それなら、雑な描き方も、あっという間の心変わりも納得です。だって、最初から本心では嫌っていなかったのだから。式で最高の瞬間を味わってもらうために、わざとそういう態度を取っていたのだから。


そう思ったら、それまでゲイカップルの目線から

世の中まだ差別や偏見ばかり、やるせないなあ

なんて思っていたのがひっくり返されて

皆んなめちゃくちゃいい人達!自分も一緒に祝福しよう!

という気持ちになって、祝福する周囲の人の目線にがらっと切り替わったのが面白かったです。


ミュージカルのシーンは幸せな時間が短すぎるなと思うくらいの短い尺しかなくて、すぐにエンドロールになってしまうのですが、冗長な描き方をしないあっさり感も好きでした。


今の現実が、いつか現実でなくなること

勿論、現実にはこんなことはなく、意識的に、または無意識的に本心から偏見を持たれてしまっているのが事実ではあると思います。生理的に無理、という人もいるでしょう。


でも、思うのです。
そういった心ない言葉を当事者に直接言うことがまかり通ってもいる現実が、いつか、それって勿論冗談だよね?と真っ先に思える日が来ることを。
この映画は、そういった未来がいつか来ることを感じさせてくれるものでした。


ドキュメンタリーでない映画って、現実でない出来事を現実のように見せて感情移入させるものだと思うのですが、この映画は気分の悪くなる現実的な出来事を、いつか現実じゃなくなるんじゃない?と思わせて、でも愛し合うカップルは現実のままだよ、という提示をしてくれているのかなあと思うのです。


難しく考えなくても楽しめる

まあ、そのように色々考えなくても、時々クスッと笑えるシーンもいっぱいで楽しめる映画です。


公式サイトを見るともっと素直なストーリーで紹介されていますし、私が登場人物に対して穿った見方をし過ぎなのかもしれません。

私って嫌なやつだなあ...。


個人的には、ゲイカップルの片方、パオロの洋服に注目です。シーン毎に様々なカラフルシャツを着ているのが可愛い。シュッとしているわけではなく、もっさりな感じなのですが、体格の良さとほんわかした雰囲気にシャツが似合っています。


字幕映画ですが、素敵な結婚式を是非劇場で。
一緒にお祝い出来ると思います。

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