ドリーム名鑑 赤い機人と原子力教団 53.シャンテウ空域会戦(3)混戦
アロンゾから発船した。
さやかとは、ハンガーですれ違っただけだが、俺は必ず生きて戻る意思表示で頷いた。さやかには、わかってもらえただろう。
足元にあるフットレバーを踏み込むと、背中のブースター出力が上がり速度がアップする。
機人へは、座っている操縦席を通じてオーラが流れ込むが、足のフットレバーや手のレバーからも瞬間的にオーラを流すことができる。
一瞬顔を後方に向けると、アロンゾから抜錨したオハジキ2機が俺のあとを追うように向かってくる。ジャマールが操縦する『ジャマール機』と、同じくアロンゾ所属の『ライマ機』だった。
アルパチア船隊群の上空へ上がると、ダルマ機士団の機人が整列していた。
俺は、ザッシュ副団長。白いパラムスの右側に着く。
ほぼ同時に、俺の右側にも上がってきた機人がいる。レイカーが駆る黄土色のパラムスだ。
「アキト」
スピーカーを通じてレイカーの声が聞こえた。
「どうしたレイカー」
「......とんでもないぞ。このパワーは......。正直、半信半疑だったが......。これなら勝負になるかもしれん」
レイカーのパラムスにも、さやかのコーティング効果が現れている。
その声からは、気迫のようなものを感じた。
「あぁ......。奴らをアルパチアから追い出して帰るぞ!」
合図の号令と共に、開戦の砲撃がはじまった。
砲撃は、双方ともに軍船を狙っているので、基本的に船隊の上空にいる機人に当たることはない。
それに、正直この距離で撃ち合っても、威力が足りず、大した成果が得られるわけでもない。
開戦時の儀礼的なものだ。
だが、先に我慢に耐えきれなくなったのは、シャルメチア軍だった。
遥か前方に見えた敵の機人群。こちらに向かって来るに従い、フォルムが大きく迫ってくる。
飛行船は近距離からの攻撃。特に機人の動きには対応しきれない。そのため、敵の機人が軍船に近づくのを阻止する必要がある。
スピーカーから突撃の声が響いた。俺はフットレバーを押し込むと、同時に足先からも、オーラを制限しながら流し込む。そうしないと、横一線で整列している他の機人とのバランスが保てないからだ。
横一線で並んだ機人群。すでに、敵シャルメチアの機人ケアムスが、よく見える位置まで接近していた。
ザッシュ機の隣にいたシャリア機から、ライフルボムが放たれた。シャリア機に続くように他の機人からも射撃が開始される。
俺も、前方に向かってライフルを放つ。
狙って撃ってはいるが、敵は容易く回避する。だが、こちらもそれは同じで、敵からの射撃を回避した。
「レイカー!」
俺はレイカーの名を呼んだ」
「おうさ!」
レイカーから、承知したような返答がくる。
俺はフットレバーを深く踏み込み、オーラを流し込んだ。
パラムスのブースター出力が、一気に全開になる......。
「「いぃっけぇぇえ!!!」」
俺とレイカーのパラムスは、並んで前方へ飛び出す。
その速度は、他の機人の追随を許さなかった。
今まで体験したことのない速度......。自分のオーラの流れる感覚もスムーズだった。まるで......いつもよりも機人が自分の身体の一部のよう。それだけ、さやかのコーティング効果が高いということだ。
前方へ飛びながら背中のソードを手に取る。隣のレイカーも同じだ。2機のパラムスは、ソードの剣先を前に突き出しながら飛んでいた。
前方から敵機人のケアムスと、スペイゼであるベイスタから放たれた攻撃が迫って来る。
だが、俺たちは回避行動を取らなかった。
敵の攻撃が当たる瞬間に、2機が手に持つソードが光る。
オーラを流し込んだソードの先端に敵の攻撃は当たるが、当たった先から、全て横にそれていく。
俺たちはそのまま、敵の機人群へ突っ込んだ。
その勢いに飲まれたのか、敵の機人たちは俺たちを避ける。だが、その奥にいた不運なベイスタが1機、ソード2本の串刺しになった。俺たちはその瞬間に、左右に分かれて近くにいたケアムスに照準を当てて接近する。
先に敵に突入したためか、周りの敵からも攻撃を受ける。接近していた敵から距離をとり、回避に専念する。
すぐに、後方からの味方が合流してきたので、乱戦状態となった。
レイカーのパラムスが相手のケアムスと戦っている。ソードで何合か打ち合う。途中、何処からかの射撃により双方が離れて一旦距離を取るが、再び相手に向かって行く。すれ違いざま、レイカーのソードが、敵機人の右腕を肘から切断したのが見えた。
俺も、相手の機人とソードで打ち合っていた。途中、ベイスタから砲撃を受けたが、追いついてきたジャマールのオハジキが、牽制してベイスタを追い払う。そのジャマールのオハジキも、敵のベイスタに立ち向かっていく......。
敵機人が、牽制のためにライフルボムを発射する。俺はそれを回避することなく、ソードでさばき弾き返した。
敵機人に近づいた俺は、ソードを振り下ろす。相手はそれを自分のソードで受ける。3合ほど打ち合い、4合目のときに相手のソードにヒビが入り、続けて打ち込んだ5合目に敵のソードが砕けた。その衝撃に、俺のソードは相手の正面からはそれたが、敵の肩に当たり装甲を弾き飛ばす。
不利を悟ったのか、相手のケアムスは距離を取ってそのまま後方へ下がる。
「やるじゃないか。そんなパワーを見せつけられると、こっちは立つ瀬がないねぇ~」
その声はシャリア・リッケンドール隊長だった。
「ハイよっ!」
リッケンドール隊長の掛け声が聞こえる。彼女の重装甲パラムスは、そう言いながら2体のケアムスを相手にしていた。シールダーとして、いつも団の盾役として、団の肝っ玉母さんを演じている姿は、周囲に安心感を与えてくれる。
「アキト、レイカー! ザッシュ機の援護に行きな!」
シャリア隊長が言い放つ。
俺たちは、戦場の中からザッシュ機を探す。
「アキト! 右下だ」
レイカーの声で、右側下方を見ると、ケアムス2体に追い込まれかけている白いパラムスを発見した。
「レイカー! 奴らにまだ悟られるのはまずい。援護に向かうぞ!」
「わかった!」
俺たち2体は急ぎザッシュ機へ向かう。
ザッシュ機の動きは、一見普通に動いているように感じるが、なぜかぎこちない。それでも2体の攻撃を避けながら、突っ込んできたベイスタをすれ違い様に切断して見せた。それは非凡な動きと言えるだろう。だが、それがスキを作ってしまった。対峙していた1体のケアムスのソードがザッシュ機に振り下ろされる。
(まずい! ......間に合うか......)
そう思った瞬間、襲い掛かるケアムスの背中から煙があがる。ショットボムの直撃を受けたようだ。
ザッシュ機の前をオハジキが通り過ぎる。ジャマールが操縦するオハジキだった。
相手のケアムスは、直撃を受けながらもザッシュ機に迫る。だが、俺たち二人のパラムスの方が早く、俺は相手に体当たりをかました。
吹き飛ばされた相手が一旦後方に下がる。
「アキト隊長。レイカー隊長......ありがとうございます......」
スピーカーから、聞こえてきたのは女性の声。
「大丈夫か? 無理をするな。それより、礼ならこの戦いが終わってからジャマールに言ってくれ。だいぶ君に嫉妬しているからな」
「ジャマールが? ......はい......」
「とりあえず、この戦いが終わってからだ」
「アキト!」
突然レイカーの叫ぶ声が聞こえた。
「どうした?」
「アラゴの船隊が......突入してくる」
レイカーに言われて俺は見た。会戦空域の中央から、紡錘陣形をとったアラゴの船体が突入してくるのを......。
アラゴ船隊からの砲撃により、正面にいたシャクティ機士団の駆逐船2隻が一瞬で撃沈された。その際、旗船である巡洋船も、被弾して煙を吹いている。
その陣形の中から、フォルムの異なる機人とスペイゼが出撃してきた。
アラゴの機人ガラガンドと、スペイゼであるカジスタである。
戦場の空気が一変していた。それだけ存在感のある『空賊』が現れたのだ。
空域を蹂躙するアラゴの船隊。
だが、それだけでは終わらなかった。その中から飛び出して来て、こちらに向かって来る1体の機人。
その機人に対しては、多数の攻撃が集中した。だが、その機人の速度に合わせることなどできない。機人が飛び去った後方を、攻撃の射線が過ぎ去る。
向かってくる赤い機人......。
あれがアラゴの......。
「アーケーム!」
俺は、その名を口にした。
(つづく)
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