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『ヒプノシスマイク』30曲分くらいの音楽ネタを解説しようと思います【Part 1】

「ヒップホップカルチャーと、僕がいる声優さんのカルチャーだったりアニメーションのカルチャーだったりという結びつきを考えると、何個か要素はあると思うんですけど、僕が感じてるのは、ひとつは、"ディグる"って文化があるのかなと思ってるんですよ。」

木村昴、「Creepy Nuts×木村昴 アニメ『Bラッパーズストリート』にみるHIPHOPの現在地」にて

声優・木村昴をはじめ、総勢18名の男性声優と3名の女性声優(※いずれも2020年8月現在)による音楽原作キャラクターラッププロジェクトが、『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』、通称「ヒプマイ」です。
プロジェクトが始動した2017年の段階で既にコアなファンからは注目を集めていましたが、2018年頃から一気にファン層の拡大に成功、現在はアニメ化も控え、なお勢い衰えることのない巨大プロジェクトです。

――イントロはこのくらいで。
おそらく、この記事にたどり着いた方は、「もうヒプマイの曲はある程度聴いてるよ」が7割、「そこまで知らないけど興味あり」が2割、「サンプリング」というワードに引っかかった非オタクのヘッズさんが1割くらいの比率でしょうか。
本記事を最も楽しめるのは、おそらく7割のヒプマイ中級者以上の方々と、1割の非オタクヘッズのみなさんです。
というのも、本記事では、ヒプマイ楽曲およびドラマトラックの音楽ネタ、具体的には、ビートや歌詞、曲名でサンプリングされている元ネタを解説していきます。
したがって、既にある程度楽曲に親しみのあるヒプマイファンの方々は、サンプリング元を知ることで新たに楽曲の解釈の幅を広げることができ、非オタクのヘッズさんは、自分の好きなHIPHOPカルチャーが全くの別世界で市民権を得ている事実を楽しむことができるんじゃないでしょうか。
ただ、ヒプマイもHIPHOPもどっちもよくわかんないよって方にも楽しんでいただけるように書いていこうと思っているので、ぜひ気軽に読んでもらえればと思います。

"ディグる"を合言葉に、ぜひヒプマイ楽曲のちょっと深いところまで、一緒に潜っていきましょう!!!

潜る前に…

本記事では、先日わたしが作成・公開したSpotifyプレイリスト『ヒプノシスマイク 音楽ネタ 【サンプリング⇒元ネタ】』の曲順に沿って解説をおこなっていきます。
Spotifyユーザーの方は、本プレイリストを聴きながら読んでいただくことをオススメします。ちなみに、上記のプレイリスト名からリンク飛ぶように設定しているのでよろしくです。

解説スタート!


1.「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- +」 - ヒプノシスマイク -D.R.B- (Division All Stars)

【元ネタ】「Welcome To The Dungeon」 - SKY-HI

ヒプマイを代表するマイクリレー楽曲ですが、歌詞にある「Welcome to the division」というフレーズは、見たまんま「Welcome To The Dungeon」を模したものでしょう。「-Division Battle Anthem-」にも同じフレーズがありますよね。 
元ネタですが、AAA所属のイケメンラッパーSKY-HIさんの代表曲であると同時に、『フリースタイルダンジョン』の初代テーマソングとしても知られる楽曲です。歌詞には、同番組で”初代モンスター”を務めたラッパーの名前が散りばめられており、「あゝオオサカdreamin'night」作詞のR-指定、「BLACK OR WHITE」作詞のDOTAMA、”新宿スタイル”の提唱者、漢 a.k.a. GAMIや、「G anthem of Y-CITY」作詞のサイプレス上野らの名前が確認できます。期せずして、ヒプマイとMCバトルシーンの近さが本楽曲から垣間見えますね。
ちなみに、「-Division Battle Anthem-」の方では、ブッダブランドによる日本語ラップ史の最重要楽曲のひとつ「人間発電所」と、ヒップホップグループ「nobodyknows+」のグループ名が、いずれも、波羅夷空却さんの「金言 発電所ばりのテンション」、「nobody nobody」というラインでそれぞれサンプリングされています。
特にnobodyknows+は、「Bad Ass Temple Funky Sounds」を手掛けており、ナゴヤの空却さんにとっては大きな意味を持つ引用です。

「ヒプノシスマイク -Division Battle Anthem-+」

「Bad Ass Temple Funky Sounds」


2.「Survival of the Illest」- ヒプノシスマイク -A.R.B- (Division All Stars)

【元ネタ①】Survival of the Fittest - Mobb Deep

【元ネタ②】「BLACK BOX」 - JUSWANNA

楽曲名はMobb Deepの「Survival of the Fittest」からの引用でしょう。
ちなみに、ももクロにも「Survival of the Fittest」という同名の楽曲があり、そちらの作詞はサイプレス上野。
本国ではシーンのパイオニアとして有名なMobb Deepですが、海を越えた日本のサブカルチャーの中にまで息遣いを感じさせる影響力の大きさには、ただ舌を巻くばかりです。
そして【元ネタ②】ですが、独歩さんのバースにご注目ください。
今か今か待ち侘びた瞬間」というラインが、「BLACK BOX」の印象的な歌い出し「今か今かと待ちわびた奴」のサンプリングであることがわかります。
JUSWANNAというと、新宿のLibra Recordに所属し、漢 a.k.a. GAMI率いるMSCの『新宿 STREET LIFE』への客演参加など、新宿と深く結びついたグループとして知られています。
シンジュク・ディビジョンの独歩が、JUSWANNAの代表曲から歌詞を引用することは、かなり熱量のある遊び心と言えるでしょう。


3. 俺が一郎 - ヒプノシスマイク -D.R.B- (Buster Bros!!!)ヒプノシスマイク -D.R.B- (山田一郎)

【元ネタ①】GOLDEN MIC (REMIX) - Zeebra,KASHI DA HANDSOME, AI, 童子-T, 般若


【元ネタ②】Wildin' - ZEEBRA

(※いずれも公式動画がないので動画省略)


木村昴が「好良瓶太郎」名義で自ら歌詞を手掛けた本楽曲は、随所にZEEBRAのサンプリングが見受けられます。
これが伝説のヒプノシスマイク」というHookは、「GOLDEN MIC (REMIX)」の「これが伝説のゴールデンマイク」という歌詞からの引用で、1verse目の「常にNO.1 Player 蹴散らすぜヘイター」は、「Wildin'」の「The NO.1 Player 足元のヘイター」を引用したものでしょう。
また、直接的なサンプリングではないのですが、「俺が一郎」という曲名自体も、ZEEBRAの二大パンチライン、「Street Dreams」の「俺がNo.1ヒップホップドリーム」を連想させますよね。(言うまでもなく、もう”一大”は「東京生まれHIPHOP育ち」)
ちなみに「俺が一郎」ですが、2verse目ではエヴァンゲリオンネタを盛り込んでます。
こっちは結構いろんな先行研究があると思うんで、興味出た方は「俺が一郎 エヴァ」で調べてみてください。


4. New star - ヒプノシスマイク -D.R.B- (Buster Bros!!!)ヒプノシスマイク -D.R.B- (山田三郎)

【元ネタ】G線上のアリア

三郎くんお得意のクラシックサンプリングシリーズの第一弾です。
クラシック全然わからないので、「なぜG線上のアリア」というサンプリングの意図とかはわかりません。
わからないんですがなんかかっこいいとおもいました。
クラシックに造詣の深い有識者様の見解を切に求めます。

5. 「G anthem of Y-CITY」- Hypnosis Mic -D.R.B.- (MAD TRIGGER CREW)ヒプノシスマイク -D.R.B- (碧棺左馬刻)

【元ネタ①】新・仁義なき戦いのテーマ - 布袋寅泰

【元ネタ②】ROLLIN' 045 - OZROSAURUS

(※動画省略)

ヒップホップってサンプリングの文化じゃないですか。
左馬刻はヤクザなので『新・仁義なき戦い。』の曲、『キル・ビル』でも使われた「チャーラーラ!」ってフレーズが一瞬でも入ってたら面白いですねって提案したことがあるんですよ。
そうしたら本当に入っていたんです。
偶然、作曲者とアイデアが合致したのかもしれないですけど、そういうHIPHOPならではの楽しさが増えていくといいですね。


浅沼晋太郎、「男性声優ラップバトル『ヒプノシスマイク』短期集中インタビュー連載 - 第3回:浅沼晋太郎」より引用 

【元ネタ①】については、上記のとおり浅沼さん発信の可能性もあるようですね。「左馬刻はヤクザなので『新・仁義なき戦い。』の曲」、解釈一致です。
【元ネタ②】については、「このヨコハマの街をローリン」など、本楽曲の随所で使われる”ローリン”が、 OZROSAURUSの「ROLLIN' 045」から引っ張ってきたんじゃないかという点です。
正直、これだけじゃ無理やりっぽいですよね。
しかし、OZROSAURUSが通称「ハマの大怪獣」と呼ばれるレぺゼン横浜の超レジェンドグループであること、作詞のサイプレス上野も「プリンス・オブ・ヨコハマ」を自称する横浜のラッパー、つまりオジロの後輩ラッパーであること、MAD TRIGGER CREW「Yokohama Walker」のPVが限りなく「ROLLIN' 045」のPVっぽいことなどを踏まえると、横浜における「ローリン」の意味が特別なものになってきませんか?
ちなみに「045」というのは横浜の市外局番らしいですね。
「G anthem of Y-CITY」に出てくる「45ラビット」というフレーズは入間銃兎さんのMCネームですが、ここが由来なんでしょうか。
なお、銃兎さんのソロ曲「ベイサイド・スモーキングブルース」でも、「Rolling」というワードが歌詞に使われています。

市外局番を用いて街をレップするというのはHIP HOP的には割と常とう手段で(※「エリアコード」というみたいです)、R-指定さんが「地元大阪堺市の市外局番を使いたいのにキツイ」という話を以前ラジオでされていました。大阪堺市の市外局番は「072」とのことです。

ということで、【Part 1】はこのあたりで締めさせていただこうと思います。
次回は、ヨコハマやシンジュクに触れることが多くなるかと思いますので、ファンの方はお楽しみに!


【追記】2020/08/20、【Part2】投稿しました!

 


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