ちょっと変わったデルタ関数の変形
物理の論文を眺めていたらデルタ関数に対するテイラー展開のような式が出てきました
$$
\begin{align}
\delta\left(q_\perp^2/Q^2 - \frac{(1-x)(1-z)}{xz} \right) =& \frac{x}{(1-x)_+} \delta(1-z) + \frac{z}{(1-z)_+} \delta(1-x) \nonumber \\
& + \delta(1-x) \delta(1-z) \log\frac{Q^2}{q_\perp^2} + O(q_\perp^2/Q^2 \log\frac{Q^2}{q_\perp^2}) \nonumber
\end{align}
$$
ここで”+分数”には
$$
\begin{align}
\int_z^1 dy \frac{G(y)}{(1-y)_+} = \int_z^1 dy \frac{G(y)-G(1)}{1-y} - G(1)\log\frac{1}{1-z} \nonumber
\end{align}
$$
という定義を使っています
うーんこれどうやって導出するんだろうか?よくわからないです
調べても次の元論文の式(18)を引用してるだけで導出してないものが大半のようでした
ですが、さらに網羅的に調べると次の論文で導出があるではないですか!
というわけで、今回は上の論文の導出をもう少しシンプルなデルタ関数を用いて見ていきます
設定
今回は以下のデルタ関数について考えます
$$
\delta(\alpha-(1-x)(1-z))
$$
ここで$${\alpha}$$は$${0< \alpha \ll 1}$$という条件を満たす実数とします
さらにこのデルタ関数が以下のような積分で使われるとします
$$
\begin{align}
\int_0^1 dx f(x) \int_0^1 dz g(z) \delta(\alpha - (1-x)(1-z)) \nonumber
\end{align}
$$
計算
はじめに非積分関数を次のように分解します
$$
\begin{align}
f(x) g(z) =& [f(x) - f(1)] g(z) \nonumber \\
& + f(1)[g(z) - g(1)] \nonumber \\
& + f(1)g(1) \nonumber
\end{align}
$$
すると積分も3つに分かれまして、それぞれを$${I_1, I_2, I_3}$$とおきます
I1の計算
$${I_1}$$を計算していきます
まず$${z}$$について積分すると
$$
\begin{align}
I_1 &= \int_0^1 dx [f(x) - f(1)] \int_0^1 dz g(z) \delta(\alpha - (1-x)(1-z)) \nonumber \\
&=\int_0^{1-\alpha} dx \frac{f(x) - f(1)}{1-x} g\left( 1- \frac{\alpha}{1-x} \right) \nonumber
\end{align}
$$
と実行できます
ここで、$${x}$$の積分範囲が変わっているのは$${z}$$積分が0から1の範囲に入ってるので$${0\le 1- \frac{\alpha}{1-x}\le1}$$の条件が必要だからです
この範囲外だと$${z}$$積分がゼロになります
さらに$${\alpha}$$が小さい近似でのリーデイング項のみを取り出して、この積分をうまい形に変形すると
$$
\begin{align}
\int_0^{1} dx \frac{f(x) - f(1)}{1-x} g\left( 1\right) = \int_0^1 dx f(x) \int_0^1 dz g(z) \frac{\delta(1-z)}{(1-x)_+} \nonumber
\end{align}
$$
となります
I2の計算
では次に$${I_2}$$の計算に移ります
$${I_1}$$の場合と同じように計算を実行すると
$$
\begin{align}
I_2 &= \int_0^1 dx f(1) \int_0^1 dz [g(z) -g(1)] \delta(\alpha - (1-x)(1-z)) \nonumber \\
&= f(1) \int_0^{1-\alpha} dz \frac{g(z) -g(1)}{1-z} \nonumber \\
& \sim f(1) \int_0^{1} dz \frac{g(z) -g(1)}{1-z} \nonumber \\
&=\int_0^1 dx f(x) \int_0^1 dz g(z) \frac{\delta(1-x)}{(1-z)_+} \nonumber
\end{align}
$$
となります
I3の計算
$${I_3}$$の場合は近似を使わなくても良くて
$$
\begin{align}
I_3 &= f(1) g(1) \int_0^1 dx \int_0^1 dz \delta(\alpha - (1-x)(1-z)) \nonumber \\
&=f(1) g(1) \int_0^{1-\alpha} dx \frac{1}{1-x} \nonumber \\
&=f(1) g(1) \log\frac{1}{\alpha} \nonumber \\
&= \int_0^1 dx f(x) \int_0^1 dz g(z) \delta(1-x) \delta(1-z) \log\frac{1}{\alpha} \nonumber
\end{align}
$$
と計算できます
まとめる
上記の計算をまとめるとデルタ関数についての近似式が以下のように求まります
$$
\begin{align}
\delta(\alpha - (1-x)(1-z)) \to \frac{\delta(1-z)}{(1-x)+} + \frac{\delta(1-x)}{(1-z)+} + \delta(1-x) \delta(1-z) \log\frac{1}{\alpha} \nonumber
\end{align}
$$
よって、この記事の初めに見た式の簡単な場合が示せました
より一般の場合は初めに紹介した論文を見るといいと思います
おわりに
今回はデルタ関数のテイラー展開のような等式について、どのように導出するのかを見てきました
導出過程を見るとわかるように、結局は積分を素直に計算しているだけでした。ですのでデルタ関数の等式として使う必要はなく、元の積分を愚直に計算すればよいという結論になります。
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