見出し画像

口笛サークルに入ったときの話

大学一年の時、早稲田大学にあるインカレの口笛サークルに入っていたことがある。

全国的に見ても口笛のサークルがある大学は珍しい。

私は小さい頃から口笛が好きでよく吹いていたのだが、サークルに入った目的は2つある。

1つは人と一緒に口笛を吹くこと。

口笛を吹ける人に会うこと自体は珍しくはないが、同じ曲を一緒にアンサンブル形式で吹く機会に恵まれることはそうそう無いだろう。

私は中・高時代は吹奏楽をやっていたこともあり、口笛の音をたくさん重ねたらどんな音色になるのか、どのくらい音に厚みが出るのか、ずっと興味があった。

もう1つの目的は、口笛の上手い人に会うこと。

たまに街中でチャリンコに乗りながらきれいな口笛を軽やかに吹いているオッサンに出会うことがあるが、あれを超えるような猛者がそれなりに集まっているだろうという期待と、自分のレベルはその中でどれくらいのものなのかを知りたいという思いがあった。

ちなみにYouTubeで口笛関連の動画を検索すると、世界大会のチャンピオンの演奏がたくさん出てくる。

一例として、世界口笛大会のチャンピオンにして、なんと口笛で東京藝大に合格した奇才、青柳呂武さんの動画を載せておく。

本当に上手な人の口笛は、フルートとリコーダーの音を足して割ったような、本当に伸びやかで美しく澄んだ独特の響きがある。

初めてこのような世界レベルの演奏を聴いた時は衝撃で、もっときちんと技術を突き詰めてみたいという思いが一気に高まった。

また、サークルに入ったら普通の部活と同じように、代々受け継がれている技術の結晶に触れることができるのではという期待もあった。


で、実際に中に入ってみた感想であるが、上手い人はそこそこいた。

明確で分かりやすい基準で技術レベルを説明するのは難しいのだが、私は20人くらいいるメンバーの中(サークルに入ってから口笛を吹くようになった初心者もいる)で、ちょうど中間かちょい上くらいだった。

中にはウォーブリング(詳しくは下記の動画で)や巻き舌といった高度な技術を身につけている人もいて、かなり興奮したのを覚えている。

そしてもう一つの目的であった合奏の方であるが、これは…


正直に言うと、思っていたほどではなかった。

これからやってみたい人の夢を壊さないために断っておくと、私は小さい頃から20年以上「口笛をたくさんの人と一緒に吹いたらどんな音になるんだろう」と夢想してきたので、期待があまりに大きすぎたのだ。

また、私がもともと吹奏楽をやっていたりオーケストラを聴いていたりしたせいで、似たような重厚さや多彩な音の広がりをしてしまったせいもある。

冷静に考えて見れば、一人で出す口笛の音量からしてそう大きなものではない(もちろん近くで吹かれるとそれなりにうるさいが)ので、十何人が集まって吹いたところでたかが知れている。

また、口笛は他の楽器のように正確な音程を取って安定させるのが難しい。

世界チャンピオンクラスは別だが、素人には至難の業である。

そのため、集まって吹くとどうしてもピッチのズレ(この辺は音楽経験者なら分かってもらえるだろう)が気になってしまう。

かくして、私の幼い頃からの夢は一つの終わりを迎えた。

大学の勉強や仕事など他のことで忙しくなり、次第にサークルからも足が遠のいてしまった。

だが、口笛そのものへの愛は変わっていない。

今もひそかに、あの美しい音色の世界を楽しんでいる。

今ではプロのレッスンを受けることも難しくないので、いつか本格的な指導を受けて練習に励みたいとも思っている。

機会があれば、その体験もまた綴ってみたい。

以上、何てことない私の思い出話であったが、読んで少しでも口笛に興味を持ってくれた人がいたら幸いである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?