篠田桃紅 - 墨象によることばの拡張
引っ越し準備で時間がない中、どうしても一度観てみたかった篠田桃紅の展覧会が開催しているので、一瞬行ってきたメモ。
篠田桃紅は昨年2021年に逝去した女性の書道家です。随筆家でもあり、亡くなるほんの少し前にもエッセー集を出版してましたが、なんと享年107歳!
彼女の作品の特徴は墨象と呼ばれる、いわば墨を使った抽象絵画。前期の作品はいかにも書道なものから大胆に字で遊んだものが多いですが、2年の渡米期間の後は現代アートシーンの影響をもろに受けて、巨大な和紙にごん太の墨の線を組み合わせる、抽象度の高いダイナミックな作品が多くなります。そのため書家というよりは現代アートの作家として、国内外で非常に高い評価を受けています。50年代のNYでキモノを着た女性がどでかい筆と和紙でのびのび謎の図形を描く姿は、当時さぞウケたことでしょう。
展示構成は概ね年代順でした。前半は所謂書道的な作品と、小ぶりで細い線を組み合わせたドローイングが多く、それでもすでに文字に囚われない抽象度の高さが際立っていました。後半はかなり大型の作品が多くなり、有名な作品は大体後半。
自分はどちらかというと渡米の少し前くらいの繊細な線を組み合わせた、息遣いを感じる表現のほうが趣味でした。が、やはり評価の高いであろう大きい作品は力強くて非常に骨太で圧倒されました。でも構成パーツがそれぞれちゃんと一本の”墨の線”で”一画”であり、ただ単に墨を塗り重ねたわけではなくて”書”なんですよね。筆の入りと抜きがあって。そこに墨の濃淡や差し色で抑揚や対比を付けることで、作品に奥行きが出ています。
その時の心の在り様を筆を通して墨の象形で写し取る行為は、彼女にとって言葉であり、やはり書なんだと思います。特に画面外から現れたり、和紙の目に細く消えていく墨の線は、ドローンミュージックのような永遠性や連続性を感じて、映画「メッセージ」さながらに時間を超える未知の言語と対話するかのような印象を受けました。
Toko Shinoda : a retrospectiveは初台の東京オペラシティ・アートギャラリーで開催中です。
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