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入学に際しての心構え

 四月六日、私は宇都宮高校に入学して三年間の高校生活に足を踏み入れられることになった。当然だが、高校生活は私にとって初めてのことで、「新しい」ことである。
 「新しい」は人間にとって特別なことだと思う。興奮と不安が入り混じる感情をうむ。高校生活とは離れるが、私はノートのことを考えてみた。勉強に使うノート。教科書の内容をまとめるノート。そのために買った「新しい」ノート。「新しい」ノートを開くと、私はその白さに微かではあるが興奮と不安を覚える。自由に書ける、という興奮と、汚してしまわないだろうか、という不安だ。そして決意するのだ、ノートを綺麗に使おう、と。そして白かったページに、文字が整然と並べられていく。朝、昼、夜。色々な時間帯に色々なことを書きこんでいく。そうしてノートは徐々に埋まり、私の「白」に対する不安は薄れていく。書き慣れたノートは私にとって「新しい」ものではない。時が経つにつれてノートに対して感情を抱かなくなる。そうすると、やがてその時は訪れてしまう。字が乱雑になり、カラーペンで誤字脱字をし、紙が折れてしまう。一度そうなると、更にどうでも良いと思えてしまう。突然、怠惰がうまれてしまうのだ。けれども、私はその怠惰に悪びれることなく次の「新しい」ノートを買う。今度こそ、と「新しい」に逃げていく。
 こうして、ノートのことをいざ文面に起こしてみると、どうもこれはノートだけの問題ではないということに気付く。筆箱も、消しゴムも、教科書も。時計も、携帯電話も、部屋でさえも。自分と関わるもので、あれもこれも、と見付けていくとはたと嫌な予感がする。もしかして、「新しい」ノートと「新しい」高校生活は同じではないだろうか。そんな恐怖に立ち向かうため、高校生活のことを私は考えてみる。
 入学直前。オリエンテーションを終え、段々と高校生活が近づいているという実感がわいてきた。そして、抱く感情は期待と心配。勉強はできるだろうか、部活はどうしようか、友達は作れるだろうか。真剣に想像してみると、どれもどうにかそれなりに頑張っている気がする。けれども、冬頃から私は手を抜きはじめるように思える。二年生になっても、それはきっと直らない。なぜなら、「新しい」高校生活は一回しかないからだ。高校二年生の私は「新しい」に逃げることはできない。
 入学に際して心構えることは、勉強することや学業プラスワン、大きな声で挨拶するなどといったことではない。それらはすべて宇高生が当たり前にやるべきことで、「新しい」と感じているうちは簡単にできることだと思う。だから、心構えることはそんな当然のことにしてはいけない。そもそも、心構えとは予測される困難に対し、事前に対処の方法を考えたり精神的な準備を整えたりしておくことだ。予測される困難はただ一つ。高校生活が「新しく」ないものになってしまうことだ。ノートが「新しく」ないものになることに対する対処法は「新しい」ノートと交感することだ。では、高校生活が「新しく」ないものになることに対する対処法は転校することか。そんな筈がない。私は、日常に「新しい」を見つけだすことだと思う。または、「新しい」を作りだすことだと思う。今まで経験したことのないものに挑戦すれば、それは私にとっての「新しい」に他ならない。いつもの登下校道で意識すれば「新しい」発見ができるかもしれない。そうして、「新しい」を追求していくことで、私は日々を怠らずに過ごせると思う。
 余談ではあるが、この「『新しい』の追求」自体が私にとっての「新しい」ことだ。つまり、高校生活の「新しい」がまた更に大きくなり、私の希望と緊張も大きくなったということだ。
 こうして、ノートを振り返り、未来を推測した私は、入学に際しての心構えを明確に持つことができた。この「『新しい』の追求」という高校生活三年間のスローガンともいえる心構えを半年くらいは忘れないでいたい。そして、半年を過ぎてきたら、この心構えにも「新しい」を求めていきたいと思っている。

本文章の位置

 この文章は、私自身が高校(宇都宮高校,宇高:うたか)に入学した際に執筆した「高校入学に際しての心構え」である。もはや高校を卒業してからでさえ丸3年が経過しているから、およそ6年以上前に書かれた文章ということになる。一部、今では気に食わない表現もあったが、全文を当時のままデジタル化した。
 この文章をして、今の私と6年前の私を結び付けることも、切り離すことも、おそらくどちらも可能であろう。私自身の感覚として、今の私と過去の私とはまったく別個である。そうでありながら、今の私に過去の私がつながっていることも感じている。どちらの感覚もリアルであり、どちらの感覚としてもこの文章を読み込むことはできるだろう。
 いったい、この6年間にあった私にとって「新しい」できごとたちは、今の私にどう差し込まれているのだろう。

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