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自分のマンションにとって駐車場とは何ぞや?(マンション駐車場運用戦略②)

前回は、駐車場の利用が減ると管理費が高くなることを書きました。
今回は、どのような対応を取るのが良いのかという考察前に、
・ 立場の違いで対立しがちな駐車場議論
・ 自分のマンションにとって駐車場とは何ぞや
という内容を書いてみたいと思います。

なお、今回はマンション駐車場とざっくりとした範囲とし、機械式駐車場・タワーパーキングには限定しない内容としています。


立場の違いで対立しがちな駐車場議論

はじめに抑えておきたいのは、車の所有者・非所有者で駐車場への考え方が大きく異なるという点です。

このように書くと、
「そんなの当たり前のことじゃん」
って思われますよね?

しかし、駐車場について議論し始めると面白いくらいに意見が異なることで対立に繋がり、合意形成を図るのがとても大変だったりします。


車の所有者=駐車場はマンションの一部

車の所有者にとっては、マンションに「自分の車が入る空き駐車場」があることが何よりも重要です。
そのため、「駐車場はマンションの一部であり、管理組合が駐車場を維持するのは当然。できれば時世の流れを考慮してグレードアップすることが望ましい」と考えています。
では、なぜ車の所有者は自分のマンションに駐車場があることを求めるのかを以下3つの視点でご紹介します。

  1. 単純に近い方が便利
    一言で表すと当たり前の話ではありますが少し補足させていただきますと、「車を所有すると思っていた以上に車の使用頻度が高まる」という点に注意が必要です。

    例えば、徒歩10分くらいのところにあるコンビニやスーパーに行く場合、車を持っていなければ徒歩か自転車での移動が一般的で、カーシェアやタクシーを使うことは稀だと思います。
    しかし、目的地までの道や駐車場が整っているのであれば移動手段に車が入るようになり、それなりの頻度で車を出すこともあり得ます。
    この感覚が車の所有者・非所有者の大きな認識相違となるポイントです。

    一例ですが、このような認識相違は、北陸新幹線・金沢開業時に金沢へ観光に訪れた首都圏の多くの方が、金沢駅から近江町市場(徒歩15分)まで徒歩で移動しており、バス路線等の公共交通再整備を行っていた金沢市が大変驚いていたような事例でも伺えます。

    このような車の所有者の意識を考慮すると、車を取りに行く手間をかけたくないという心情に至り、自分の敷地に駐車場が欲しくなってしまうのです。
    (もちろん、外部で格安パーキングがあれば経済的な問題で別の可能性もありますが、概ね周辺相場並みか安い金額でマンション駐車場の使用料は設定されがち)

  2. 車庫証明の取得要件
    車は自宅から2km以内でないと保管場所として認められません。
    これは、車を買うときには車庫証明(自動車の保管場所が確保されている証明書)を取得する必要があるのですが、その条件が自動車の使用の本拠の位置(要は自宅)から2kmと決まっています。
    特に都市部だと月極駐車場の空きが出にくく、空きが出ても賃料が高額なことが多いことから、自分のマンションに駐車場が確保されていることがとにかく望ましいのです。
    (車を所有されたことがないと、案外認識されていないポイントです)

  3. 高セキュリティ(平置等一部を除く)
    駐車場の中にはマンション居住者以外にアクセスできない場所に設けられているケースがあります。
    近年のマンションだと、駐車場出入口に防犯カメラが設置されていたり、機械式駐車場は事故防止の観点から不特定多数が出入りしないような導線になっていたり、タワーパーキングはそもそも車がタワー内に格納されていたりするため、高いセキュリティが確保されていると言えます。
    特に、近年は自動車の盗難が相次いでいることから、マンション内の駐車場はこうしたセキュリティニーズの高まりにおいても重要性が増していると言えます。

本当に最近は車の盗難が多い。私も青空駐車場に置くのはちょっと避けたいです…

非所有者=駐車場に関心なしor機械式なら金食い虫だ!

一方で、車の非所有者は原則として駐車場に対する関心やポジティブな感情はありません。
そのため、特に問題なく運営されていれば全く気にすることはありませんが、逆に駐車場に何かしらのお金をかけようものなら烈火の如く怒る住人が出てくるケースもあります。
では、なぜ車の非所有者は無関心だったりネガティブな感情を持っていたりするのか、以下2つの視点でご紹介します。

  1. 利用する機会がないため、関心を持つ機会がない
    これが最も大きい理由です。
    何か関わりになったり、総会議案等で情報として出てくることがなかったりすれば、駐車場の存在なんて意識することはありません。

  2. 機械式駐車場は金食い虫だと考えているから
    次点。最近はマンション修繕の話題で機械式駐車場についても取り上げられるケースが増えており、多くの場合は「車の所有者減少」と「機械式駐車場老朽化による修繕費問題」がセットで語られることで「機械式駐車場=金食い虫」というインプットが先行している状態です。
    なお、そんなこと言う私も同じような内容をnoteに書いています


【参考事例】「何か」あると怒り出す車の非所有者

駐車場を巡る議論において、駐車場非利用者から八つ当たりに近い感情を出されるケースもあります。
前に書いたnoteで触れた通り、多くのマンションでは管理費だけで管理委託費等の経費を賄いきれておらず、駐車場使用料を繰り入れることで成り立っています。
つまり、駐車場使用料のおかげで本来必要な管理費よりも安く設定できるのです。

駐車場使用料と管理費の関係

私が前に理事長を務めていたタワーマンションでは、経費の増加に加えて駐車場利用者とともに駐車場使用料が減ったことで、管理費を値上げしなければならなくなりました。

その際に説明・広報を行ったのですが、
駐車場利用が減って管理費が上がったなら、駐車場利用者が負担して管理費の値上げは阻止しろ!」
という心温まる投書を複数枚頂くことに…😿


このことは、管理費の観点で駐車場の恩恵を受けている駐車場非利用者の中には、「何か」あるとその恩恵を忘れて怒り出す人が少なからずいるという事実を示しており、駐車場に関する合意形成は困難なんだなぁと思ったのでした…。

世論って曲者よねぇ


自分のマンションにとって駐車場とは何ぞや?

先の通り、車の所有者・非所有者で基本的には駐車場に対する考え方は大きく異なります。
これらを理解し駐車場とどう向き合うかを考える上で、次に「自分のマンションにとって駐車場はどういう存在なのか?」を確認しておくことが重要だと考えます。


判断ポイント①:車が生活の足前提のエリアか否か?

1つめはそのエリアでは車の扱いがどういう状況なのかという視点です。
郊外や地方のマンションだと設置率100%とか見受けられますから、この場合は車は足として利用されるイメージですよね。
仮に設置100%とかで駐車場区画が皆に与えられるなら、公共性が高いインフラとして皆で維持管理する存在だというコンセンサスを取るのも一つかなと思います。
(次項のB:公共性訴求ゾーンの位置付けですね)

車はマンション住民の生活の足なの? それとも一部の方のみの趣味に近いものなの?

判断ポイント②:駐車場の事業性(利用者数、赤字・黒字)

とはいえ、一都三県で供給されるマンションの多くが、住戸に対して駐車場設置率は少ないはずです。
また、100%の設置率であっても(住戸に付属する駐車場でもなければ)車を手放した後に駐車場を契約し続ける方は限られると思いますので稼働率は落ちてしまいます。

そのような状況下において、私は以下のような「マンション駐車場における事業性検討マッピング」脳内で仕分けしております。
(あくまで私なりの解釈なので一例として捉えてくださいね)

マンション駐車場における事業性検討マッピング

補足
・縦軸(駐車場利用者):

 住民の半数より多く駐車場を利用していれば「多い」
 半数未満であれば「少ない」
・横軸(駐車場事業の赤字・黒字):
 駐車場使用料ー今の保守点検費用-将来的な修繕・更新費用

A:再投資検討ゾーン
この領域の場合、駐車場は管理組合の財源であり、契約者が多数派を占める…油田と位置付けられます。
駐車場利用者の意思決定が本来強く反映される(できる)状況ですので、基本的には「どんどん便利にして、駐車場使用料を気持ちよくより多くお支払いしていただく」路線が筋が良いように思います。
主な検討テーマ:再投資(利便性向上を伴う収益増)

B:公共性性訴求ゾーン
この領域の場合、駐車場は公民館や市役所のような公共施設だと位置付けられます。
利用者が多いわりに赤字が垂れ流されている状況であることから、将来的に赤字を垂れ流さない or 垂れ流すことに対して合意形成を図るという慎重な判断と、多数派の駐車場利用者を大きく刺激せずに非利用者に理解を求める情報発信が求められます。
そのため、公共性判断(赤字を全体で負担する合理性があるのか)を最初に行い、その判断如何で次のアクションを定めるのが良いように思います。
主な検討テーマ:撤退戦(利便性向上を伴わない収益増、コスト低減)

C:末期・終活ゾーン
この領域の場合、駐車場は「少数の駐車場利用者がマンション全体の管理費・積立金の恩恵を受けて既得権益化している状態」で、少数既得権益の象徴とも言えます。
そのため、駐車場区画に対する収入増(駐車場使用料の値上げ、外部貸し)、コスト低減(機械式駐車場なら廃止・平面化等)を積極的に推進する領域だと考えられます。
主な検討テーマ:撤退戦(利便性向上を伴わない収益増、コスト低減)

D:撤退戦準備ゾーン
この領域の場合、駐車場は将来的な紛争リスクを抱える油田だと言えます。
都市部の新築・築浅マンションに当てはまりそうなのがここ。
駐車場は黒字だけど利用者が住民に対して少数派で、将来的な修繕費用が積み立てられていないところまでがセット。
また、後々駐車場解約が続いた時に管理費値上げがすぐにやってくる可能性が高いため、
・まずは駐車場使用料を修繕に備えて貯蓄する
・駐車場稼働率が減った時の対応を想定しておく
といったアクションを行い、その上で駐車場稼働率を維持するための方策を検討した方が良いと考えられます。
主な検討テーマ:再投資(利便性向上を伴う収益増)



マンションの駐車場がこの先生き残るには?(次回へ続く)

私の場合は先の観点で駐車場の立ち位置を整理し、その結果、
・再投資
・撤退戦
という事業性に対する検討テーマが出てきました。

この考え方や打ち手やケーススタディ等は次回でまとめたいと思いますので、もう少しお待ちいただけましたら幸いです。


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