死神【怪談朗読】【そだ怖】【創作・自作】

不定期でYoutubeに投稿している「そだ怖」チャンネルです。自作怪談オリジナルです。恐怖度は★☆☆☆☆ なので、そんなに怖くないですw


これより本編テキスト ↓↓↓


これは、まだ私が小学生だった頃の話だ。

夏休みを間近に控えたある日、私は通学の時にバイクに跳ねられ、交通事故に遭った。幸い命には別状なかったが、左脚など数箇所を骨折し、2ヶ月ほど市内の総合病院に入院する事になった。

私は入院自体、嫌だったのだが、せっかくの夏休みを病院で過ごす事になるので、そちらの方が憂鬱でしかたなかった。

しばらくは、先生や友達が見舞いに来てくれた。先生は勉強の方が心配だと言うことで自主学習出来るように、学習の手引きを作ってくれて、それを元にプリント問題などで勉強を補っていた。

そんな風に過しながら、とうとう夏休みに入った。見舞いに来てくれていた仲の良い友達も、夏休み家族でどこかへ出かけるとかで、あまり顔を出さなくなった。母親が頻繁に世話をやきにくるのと、担任の先生が時折、様子を見に来てくれるくらいだ。

私が入院している部屋は4人部屋で、左隣と足元側のベット2つは空いている。斜め向かいのベットに、少し具合の悪そうな中年の男性が入院していた。その男性とは年齢も全く違うので、同室とはいえそんなに話す事もなく過ごしていた。

その人の病名もわからず、男性がどんな病状にあるのかも知らなかった。ただ、いつも顔色が悪いな・・・具合悪そうだな、としか感じていなかった。

そして夏休みに入って何日か過ぎ、少し退屈さを覚え出した、そんなある日。

その日、同室の男性は朝食を摂る前に定期的に行う検査があるようで、看護師に連れられて、病室を出ていった。そういえば男性の家族だか親戚だか、見舞いに来ていた時に、ボソボソと会話しているのを聞くとはなしに聞いていたら、入院して半年以上経ったように話していた。

一体、男性は体の何処が悪いのだろうか・・・。ふとそんな事を考えながら、私は自分の食事を摂っていた。

朝食も食べ終え、しばらくテレビを見ていたが、ふともよおしたので、トイレへ向かうため、松葉杖を使い病室を出た。すると、廊下を行くその目の前から検査を終えて病室へ戻ろうとしている男性が見えた。

その時、私はハッと息を呑んだ。
異質で、異様な違和感を覚えたからだ。

5〜6メートル向こうから、いつものように具合が悪そうな男性は、ゆっくりこちらへ歩いてくる。私の姿に気づき、軽く笑みを浮かべながら目を合わせている。

いたって、何の変哲もない、いつもの病院での日常の中にある一コマである。

しかし、ひとつだけ・・・。
たったひとつだけ、強烈な違和感がそこにあった。

歩いてくる男性は、真っ黒なパーカーのフードを目深に被った老人を背負って居るのだ。背負っているはずなのに、その足取りに人間の体重がのしかかった負荷を感じられないのが、更に違和感を大きくする。

老人らしからぬ服装も相まって、顔を覆うように目深に被ったフードも怪しさが激しく漂う。そのフードの影からは、2つ鈍い光がのぞいている。おそらくそれは、その老人の目なのだろう・・・。こちらへ向けられているかのようなその光。およそ生気を感じられないその光に、私は金縛りにあったように、動けなくなっていた。

老人は、男性に背負われるように肩に腕を回して身を預けている。何故、私がそれを老人と見てとったか、と言うと 服の袖から覗いた枯れ枝のような手のせいだ。乾いて枯れた木の枝のようなその手の甲が、男性の肩をしっかりと捕まえていたのだ。

硬直した私を、男性が少し訝しみながら通り過ぎる。その時に初めて私は男性にまともに目をやったのだが、その顔色はいつもに増して悪かった。もはやその色は土気色で、とても生きている人のそれではなかった。私は背中の老人にばかり気を取られて、男性の様子が変わっているのに全く気づかなかった。そうして通り過ぎて行った男性の背中には、変わらず老人が張り付いていた。

その時、私は呪文が解けたかのように、動けるようになり、トイレの事も忘れて病室へ戻った。恐る恐る部屋へ入り、男性のベッドの方へ視線を送ってみたが、カーテンが閉じられていて中の様子が窺えない。私はベッドに腰かけて一息ついた。しかし私は何か、とてつもなく中の様子を窺いたい衝動にかられている・・・。

もう一度、男性のベッドの方を見ると、閉じられたカーテンに少し隙間があるのがわかった。私は角度を変えながら、首を伸ばしたり曲げたりして、その隙間から中が覗けないか試してみる。さすがに、男性はベッドに横になったのか、その姿は捉えられなかった。

私は諦めて、その日は色々な事を考え巡らしながら過ごした。私が見たアレは一体何者なのだろう。男性の様子は明らかに変わっていた、病状は大丈夫なのだろうか・・・。

怪しい老人の事を考えながら過ぎた1日だが、結局なにか答えが出る訳でもなく、私は看護師に男性の病気の様子だけでも聞いてみようか、とまで考えていた。が、その日は機会に恵まれず夜を迎えた。

病院の夕食は早いので、食後から就寝時間までの間が長い。私は気になりながらも、先生から渡されていたプリントの勉強や、ゲームやテレビ鑑賞などで時間を費やし、消灯の時間になり、床に就いた。色んなことを考えたせいか頭が疲れているのがわかる。私はすぐに深い眠りに就いた。



ふと目が覚めると、何やら呻き声が聞こえる・・・。ぼんやりした微睡みから意識が戻ってくる。あの男性が苦しんでいる声だ!咄嗟にデジタル表示の時計に目をやると夜中の2時過ぎだ。

男性は苦しさにもがいているのか、ナースコールを呼ぶ様子もない・・・。私がコールボタンを押そうか、と思い立ったその時・・・! 私は戦慄した・・・。

男性の様子を見に行こうと、視線を送ったその先には、あの時に見たフードを目深に被った老人がユラっと立っていて、こちらを見ていたのだ。いや、正確には〝見ていた〟のかは、フードによって隠れ目のせいでわからないが、やはり鈍く光るその輝きがこちらへ向けられているのだけはわかった。私はたじろいだがコールボタンを押して看護師を呼んだ。

駆けつけた看護師は、すぐに異変に気づきバタバタと何か準備をして、あっという間に男性はストレッチャーで運ばれて行った。その騒動で、私は看護師に老人の事も伝えられずに居たが、看護師は別段老人に気を取られる事もなかった。
いや、と言うか老人はいったい何処へ消えたのだろうか・・。看護師達が処置をする短い間、私はそれを見守っていたので、瞬間老人の姿を追っていなかった・・・。だが、今辺りを見渡しても、それらしき姿は見当たらない。怪しい老人の姿は煙か何かのように消えてしまっていた。

不気味な黒い老人と、病状が急変してしまった、男性の運ばれていく姿を目の当たりにしたせいで、この病室には、1人きりになった私と、不穏な重たい空気だけが残された。
また、ベッドに横にはなったものの、軽い興奮状態にあった私は、すっかり眠気などどこかへ飛んで行ってしまった。目を閉じて、無理やりに眠りに就こうとしても、あの時目にした例の老人の姿が目に焼き付いている。

今はシンと静まりかえった病室にたった1人である。あの不気味な老人がさっきまで居たこの部屋にだ・・・。

「はっ!!」

ガバッと跳ね起き、老人の姿を目にした方を睨みつけた・・・。が、そこには開け放たれたカーテンに、男性のベッドがあり、その奥の窓の外に街の灯りがチラチラしているだけだった。


ふと、目が覚めると朝が訪れていた。私はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。朝食の時間までまだ間があるが、あの男性のベッドで、看護師が何やら作業しながら、病室を出入りしている。
私は、恐る恐る通り際の看護師に声をかけた。

「あの、そこのおじさん、どうなったんですか・・・?」

「ああ、今朝は呼んでくれてありがとうね・・・あの方ね、残念だけどあのまま亡くなったのよ・・・」

私は、言葉を失っていた。
別に、特別に仲良くしていた訳でも、よく話していた訳でもない人だったが。短い時間とはいえ、同部屋で過ごしていた人で、ほんの数時間前まで確かに〝そこに生きていた〟人間が、今その人生を終えたのだ。まだ子供だった私は、その事に愕然とした・・・と、同時に、あのフードの老人の姿が、脳裏をかすめた・・・。

あの老人は、一体何者だったんだろうか・・・。

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